研究課題/領域番号 |
18K03811
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉田 晶樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (00371716)
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研究分担者 |
斎藤 実篤 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 調査役 (40292859)
吉澤 和範 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70344463)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 数値シミュレーション / 表面波トモグラフィー / マントル対流 / クラトン / 大陸リソスフェア / 大陸分裂 / ゴンドワナ / ジーランディア |
研究実績の概要 |
マントル対流の数値シミュレーションに関しては、高解像度の二次元粘弾性体モデルを用いて、沈み込みプレートの後退によって大陸プレート(大陸縁)側に伸張応力場が働いている条件での大陸分裂の様子を調べた。本研究では、大陸プレートの伸張速度をモデル毎に年間1~4 cmの範囲で変化させ、片側(東側)のみ、及び、東西両側から伸張応力がかかる二つの場合について計算を行った。その結果、いずれの場合においても、伸張速度が年間1 cmと遅い場合でも、約1600万年で大陸分裂が完了することがわかった。これは与えた大陸の伸張速度から理論的に推定される期間よりも約400万年早い。約1億年前のゴンドワナ大陸東縁での大陸分裂の主原因については、マントルの能動的上昇流によるものと沈み込みプレートの後退によるものとが考えられるが、上記の結果などから後者が支持される。 一方、大陸プレートの地震学的構造解析に関しては、豪州大陸周辺域のマルチモード表面波の位相速度情報を用いた新しい方位異方性モデルの構築を進めた。本年度の研究を通じて得られた予備的な結果から、原生代から始生代のクラトン域と、顕性代の領域とを隔てるタスマン構造線の東西において、方位異方性の方向が大きく変化することがわかった。特にこの地域はタスマン海拡大に伴う大陸分裂の影響を強く受けた豪州大陸東縁部にあたり、分裂後のクラトンの根の空間分布が、現在のマントル内部の流れ場に強く作用していることが示唆される。 現在の豪州大陸のクラトンは東側にいくほど年代が若く、厚さが薄くなっていることがこれまでの地震学的構造解析でわかっているが、本研究での理論的解析により、マントルの水平方向の流れがクラトンの側面を押す粘性力は約30~120 MPaと推定した。この力はクラトンの力学的強度よりも有意に大きく、クラトンはマントルの流れによって容易に変形することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に三次元全球マントル対流の数値シミュレーションが計画通りにほぼ終了したことで、本研究課題の交付申請段階で計画になかった二次元矩形内の粘弾性体マントル対流の数値シミュレーションを実施することができた。研究対象領域を大陸縁のスケールに絞り、かつ地表面境界を自由変形にするための疑似的な大気層(sticky air)を導入することで、大陸分裂のみならず、大陸地殻の薄化に伴う地表面のアイソスタシー沈降を再現することができた。これにより、大陸縁での大陸分裂の一般的なメカニズムについて理解がより深まった。これらの本年度の研究成果と昨年度の研究成果を査読付き国際誌に二編投稿した。 ジーランディアが約1億年前にゴンドワナ大陸から分裂したあと、現在のように海水面下にその大部分が沈降した原因は、本申請課題で究明すべき問題の一つであった。これまで、マントルの能動的上昇流によって大陸プレートに局所的な伸張応力が働いたという考えと、海溝の後退に伴って大陸プレート全体に伸張応力が働いたという考えがあった。本年度の研究で、岩石の変形実験から得られている地殻・プレートのレオロジー則を厳密に考慮した粘弾性体モデルを用いて、大陸分裂とそれに伴う地表面の沈降を再現できたことは、マントル深部からの能動的上昇流や、それによる加水融解の効果等を考慮しなくても、地質学的に合理的な時間スケールで大陸縁の分裂が可能であることを証明したことになる。この結果は、ジーランディアの形成のみならず、現在の日本列島がユーラシア大陸から分裂したメカニズムを考察する上でも重要な結果と考える。 一方、大陸マントルの地震学的構造解析については、新たな表面波トモグラフィーモデルの構築を礎に、大陸リソスフェア底面付近でのマントル流動を反映した三次元的方位異方性分布の推定やマントルダイナミクス的考察など、ほぼ計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の三次元全球マントル対流の数値シミュレーションによって、ゴンドワナ大陸東縁沖に広範な海洋プレートの沈み込みが再現されることがわかり、今年度の二次元モデルの数値シミュレーションで、大陸縁に伸張応力場が働く条件において、現実的な地質学的時間スケールで大陸分裂が完了することがわかった。次年度は、数値シミュレーションと地震学的解析から、ゴンドワナ大陸東縁での大陸分裂のメカニズムに関する理解の深化のみならず、豪州大陸東側下のクラトンの変形とマントルダイナミクスの関係について総合的な議論を行いたい。具体的な問題としては、例えば、(1)クラトンの底とその直下のマントルとの力学的カップリングの程度、(2)マントルの流れがクラトンの底を引きずる力に関する定量的議論、(3)クラトンの下に低粘性のアセノスフェアが存在する場合としない場合での上記(1)と(2)の結果への影響に関する定量的、定性的評価などである。 また、ゴンドワナ大陸東縁沖に海洋プレートの沈み込み帯が形成された後、現在に向かうまでの時間変化を、計算解像度を増やした三次元全球のマントル対流の数値シミュレーションによって追跡することを計画している。これにより、さまざまなモデルパラメータの下で、どの程度まで実際の地球で起こってきた大陸移動の様子を再現できるかについて調べたい。 大陸リソスフェアの地震学的構造モデルについては、今年度得られた暫定的な三次元方位異方性モデルをベースに、他のプロジェクトで別途開発中のベイズ推定による最新の非線形インバージョン法の活用なども含め、インバージョン手法とモデルの更なる改善を図りつつ、より高精度な大陸プレートモデルの構築を検討している。また、マントル対流の数値シミュレーション結果と地震学的解析による最新の大陸マントルイメージの結果とを融合した総合的なモデル解釈についても一層の議論を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していたサーバー関連の消耗品費や学会参加旅費等に関する経費節減により一部繰越金が生じたが、次年度に予定している解析用サーバー及びデータ保存システムの増強、成果発表旅費等で活用する計画である。
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