研究課題/領域番号 |
18K03827
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前田 晴良 九州大学, 総合研究博物館, 教授 (10181588)
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研究分担者 |
田中 源吾 金沢大学, GS教育系, 助教 (50437191)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タフォノミー / 師崎層群 / 深海魚化石 / 発光器 |
研究実績の概要 |
本研究は,研究代表者(前田晴良)および研究分担者による2名の陣容で行う3年計画のうちの第2年度分として実施した.代表者は大型化石のタフォノミーや堆積相の分析,および全体のまとめを担当し,研究分担者は,おもに共産する微化石の分析,および代表者と協力して機器分析を担当した. R1年度は前年度に引き続き,愛知県・師崎層群産ソトオリイワシ類の発光器の保存状態をマクロおよびSEMスケールで精査した.観察・分析の際,新たに特殊フィルムと光源を用いた「赤外線写真撮影」および「紫外線写真撮影」の手法を導入して,従来の可視光観察では識別できなかった化石の特徴を明らかにした.さらに,三陸地域および四国に分布する中・古生界について予察的な調査を行い,発光器を含む化石が保存されている可能性を探った. 師崎層群産の深海魚化石は,二次的に生じた鉄分の酸化被膜に覆われているため,発光器などの軟体部保存を肉眼で識別しづらいのが難点だったが,「赤外線写真撮影」を導入した結果,極めて鮮明な発光器の画像を得ることに成功した.また「紫外線写真撮影」によって,化石に保存されている発光器以外の軟体部(皮膚・筋肉)の痕跡についても可視化できることがわかった.これらにより,師崎層群産魚類化石の保存が,世界的に著名な米国のグリーンリバー層の化石鉱脈に匹敵するレベルであることが具体的に示せるようになった. 他方,切断標本および薄片によって化石断面を観察した結果,内臓はすでに分解されて腹腔は空洞化していたが,筋肉・皮膚は圧密を受けながらも体の両面とも保存されていることがわかった.これはブラジルの白亜系サンタナ層産の3D魚類化石にも見られる共通の特徴であり,死後,魚類の遺骸が腐敗・分解してゆく過程を一般化する際,重要なデータになると考えられる.これらの新知見をもとに,最終年度の研究を進めてゆく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
師崎層群産の魚類化石は,発見された1980年代からこれまで漠然と「ハダカイワシ類」と呼ばれていたが,体側に見られる発光器の配列様式から,分類学的に「ソトオリイワシ科」に絞り込むことができた.また,特殊な銀塩フィルムおよび専用照明・レンズを用いて化石標本の赤外線写真・紫外線写真を撮影した結果,従来の可視光によるデジタル撮影では識別できなかった発光器の微細な特徴を画像として再現することに成功した.これらの手法を使えば,化石表面に付着した二次的な酸化鉄による汚染を除外して観察でき,師崎層群産魚類化石の保存状態が,世界の名だたる化石鉱脈に匹敵するレベルであることを具体的な画像として示せるようになった.この点は,世界に向けて日本の研究成果を公表する上で大きな利点となる. 一方,昨年度の研究で,師崎層群産魚類化石では,腹腔内の内臓(消化管・鰾など)は,当初の予想に反して皮膚・筋肉・発光器より早い段階で消失していることがわかった.これを他の産地の魚類化石と比較検討した結果,例えば化石鉱脈として名高いブラジルの白亜系サンタナ層産の3D魚化石でも同じ現象が共通して見られることがわかった.これは今後,「魚の遺骸の腐敗・分解がどのような順序で進むか?」という一般的な問題を解明する上で重要なヒントになる.さらにこの点を検証するための比較研究として,研究協力者および各地の漁業関係者の協力により現生深海魚:ハダカイワシの新鮮な標本を多数収集することに成功し,現在,その腐敗実験を継続中である. 他方,今年度後半に予定していた化石発光器のX線CTやTOF-SIMS分析は,COVID-19の蔓延の影響により,やむを得ずR2年度に延期した.この分析結果が揃えば,予想を上回る成果が得られるものと期待している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展に基づき,次年度は特に以下の点を中心に研究を進めてゆく予定である. 1)師崎層群の化石産地がある南知多町および愛知県の理解と協力が得られる見通しが立ったので,重機を使った本格的な露頭の発掘調査を今秋に実施し,深海魚化石の保存・産状を露頭レベルで再度検証する.発掘にはさまざまな分野の研究者が立ち会うが,彼らから出された提言や助言を,本研究にもフィードバックする予定である. 2)魚の死後,微細な発光器より内臓の方がより早い段階で腐敗・分解が進んだことを示唆する結果が得られた.これは当初予期していなかった成果であり,それを検証するため,現生ハダカイワシ標本を用いた腐敗実験を実施中である.これにより,化石の保存状態から遡るアプローチに加え,魚の遺骸の腐敗過程を実際の時系列で再現するアプローチの両面から化石化過程の解明に取り組むことができる. 3)昨年度,COVID-19の蔓延の影響で実施できなかったX線CTやTOF-SIMSを用いた本格的な機器分析を行う予定である.これにより,化石中に発光器の色素を構成するオリジナルの有機物が保存されているか否かなど,より詳細な点を明らかにすることができる. 4)これらの結果を踏まえ,研究分担者と緊密な議論を行った上で,研究代表者は研究成果をまとめて投稿し,関連学会で公表する.さらに研究代表者の所属機関(=大学博物館)の特性を活かし,WEB掲載に加え,サイエンストークや研究標本の実物展示などを通して得られた成果を社会に還元したい.
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