研究課題/領域番号 |
18K03828
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田上 響 福岡大学, 理学部, 助教 (30578787)
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研究分担者 |
松本 涼子 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 学芸員 (00710138)
大橋 智之 北九州市立自然史・歴史博物館, 自然史課, 学芸員 (20584519)
藤原 慎一 名古屋大学, 博物館, 講師 (30571236)
河部 壮一郎 福井県立大学, 恐竜学研究所, 准教授 (50728152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 嘴 / 骨 / 角質 |
研究実績の概要 |
骨と角質からなり、さまざまな形態と機能を持つ脊椎動物のクチバシを、化石分類群でより確からしく復元することを目指し、平成30年度に(1)角質部の微細構造の解析、(2)紫外線蛍光撮影による角質部の分布の調査を行った。 まず角質部の形態の成因を探るべく、現生鳥類のクチバシを用いてその微細構造の解析を1) 薄片の偏光顕微鏡観察、2) 走査型電子顕微鏡観察、3) X線小角散乱法の3手法により行った。1)の結果、クチバシの角質部は外層、中間層、内層の3層に分かれること、2)より、外層はさらに微細な薄層の重なりからなること、3)の結果、層ごとに薄層の傾きが異なることが明らかとなった。 また紫外線蛍光撮影により、古生物のクチバシの復元を試みた。現生鳥類の頭骨を紫外線照射下で撮影したところ、嘴の角質部に覆われる領域は概ね一つの色を呈し、その後端付近において、色の異なる領域との境界が見られた。続いて化石鳥類である漸新統杵島層群産骨質歯鳥類の左歯骨(下顎の骨)標本の紫外線蛍光撮影を行ったところ、表面に色の異なる領域が確認された。骨質歯鳥類のクチバシには、骨質歯と呼ばれる円錐状の骨が歯のように並んでおり、この標本の前端および骨質歯を含む上端は同じ色の領域であることから、現生鳥類と同様に前者に角質が分布していた場合、骨質歯も角質に覆われていたと考えられる。この調査によって、古生物のクチバシにおける角質部の分布を、紫外線蛍光撮影により検証できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クチバシの角質部の微細構造解析において、偏光顕微鏡を用いクロスニコルで現生鳥類のクチバシの正中断面の薄片観察を行うと、角質部で消光位が異なる三層(外層、中間層、内層)の層構造を確認できた。また、走査型電子顕微鏡下観察においては、外層内に更に微細な層構造があることが確認でき、この層の向きが偏光顕微鏡下観察での消光位と関係することが分かった。さらにX線小角散乱法によって、外層では背腹軸で一定間隔の繰り返し構造があることと、外層と中間層では微細構造が異なることも示された。この結果を平成30年6月の日本古生物学会年会にて報告した。 紫外線蛍光撮影による角質部の分布調査では、まず現生鳥類の頭骨標本の紫外線蛍光撮影を行った。複数の標本で角質部に覆われる領域は概ね一つの色を呈し、その後端付近において、色の異なる領域との境界が見られた。なお、クチバシを持たない現生哺乳類のアライグマ、ハツカネズミ、鱗竜類のシマヘビの頭骨標本でも同様の撮影を行い、吻部のみ色が異なるものは無いことを確認した。続いて漸新統杵島層群より産出した、化石鳥類である骨質歯鳥類の左歯骨(下顎の骨)標本の紫外線蛍光撮影を行った。現生のいかなる鳥類とも異なり、骨質歯鳥類のクチバシには円錐状の骨(骨質歯)が歯のように並んでいる。撮影の結果、表面に色の異なる領域が確認された。本標本の前端と骨質歯を含む上端は同じ色の領域である。現生鳥類では例外なく頭部の前端は角質部で覆われており、本標本の前端に角質が分布していた場合、骨質歯も同様に角質に覆われていたと考えられる。以上より、可視光では確認できない角質部の分布を、紫外線蛍光撮影により調査できる可能性が示唆される。本調査の結果を、平成31年3月に日本地質学会西日本支部例会にて報告した。
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今後の研究の推進方策 |
クチバシの角質部の微細構造解析では、角質部が3層構造であること、また外層がさらに微細な薄層の重なりからなることが明らかとなったものの、中間層と内層の微細構造は未解明のままである。また、本調査は主にニワトリを用いて、4種の鳥類のみを対象に行った。今後は他のクチバシを持つ分類群でも同様の層状構造が見られるか否か、また中間層と内層の微細構造が外層とどのように異なるかを検証する予定である。さらに、角質の形成領域を特定するべく、バイオマーカーを用いた角質部の成長解析も試みる。 紫外線蛍光撮影による角質部の分布調査は、鳥類では現生標本と化石標本を比較できる点で、今後も有望であると考えられる。ただ現生カメ類標本はこれまで調査できた数が少なく明瞭な結果も出なかったため、今後撮影を継続し、鳥類と同様の結果を得られるか確認する。またクチバシを持っていたと考えられる化石標本に関しても、撮影の許可を頂いたものより紫外線照射下撮影を進め、現生標本と比較しつつ、角質部の分布を検証する予定である。さらに、紫外線蛍光撮影での色の違いをもたらす要因を、現生標本と化石標本に分けて確認する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の経費は主に研究打ち合わせ、博物館施設における標本調査および学会発表のための旅費とさせていただく予定であったが、調査は研究代表者ならびに研究分担者の所属機関または近隣の研究機関を訪問し進めることができたため、それぞれの出張にかかる旅費が予定より低く抑えられた。 今後も現生および古脊椎動物の標本調査のために、国内外の博物館施設を訪問する予定である。また、調査の進捗報告および研究方針の調整のため、研究代表者あるいは研究分担者の所属機関にて、研究総括のための打ち合わせを行う。さらに、本課題で得られた成果を国内外の学会にて発表する予定である。既に本報告書作成時点で、2019年7月にチェコのプラハで開かれる国際脊椎動物形態学会にて発表することとなっている。以上の目的で、経費を主に旅費として使用させていただく。なお、平成31年度も動物園、水族館等より脊椎動物標本をご提供いただく場合、標本の輸送費にも経費を充てさせていただく。
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