研究課題/領域番号 |
18K03829
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
上野 勝美 福岡大学, 理学部, 教授 (90241786)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 三畳系 / 有孔虫 / 大量絶滅 / 多様性回復 / ペルム系 |
研究実績の概要 |
本年度は当初計画に従い,4月から5月にかけて本研究のメインターゲットであるタイ国北部ランパン地域の上部ペルム系-三畳系を精査し,あわせて同国南東部のアランヤプラテート地域に分布する詳細な年代についての報告の無かった三畳系石灰岩の予察的な調査を行った.特に前者では,海外共同研究者の尽力もあり,下部三畳系石灰岩を大規模に採掘している石灰岩鉱山内での調査を実施することができた.その結果,下部三畳系石灰岩は層厚が300mを超え,多くの層準で大型のピソイドから構成される非常に特異な岩相を呈することが明らかになった.従来,ランパン地域の下部三畳系はPhra That層とよばれ,砕屑岩が主体のサクセッションであるとされていた.そのため,本科研費の調査により見出されたピソイドを主体とした下部三畳系石灰岩に対しては,新たな岩相層序単元名を提唱する必要があることが示された.なお,この研究成果の一部については,7月にドイツ,ケルン大学で開催された第19回石炭-ペルム系国際会議での”Great Permian-Triassic Transition”のセッションにおいて発表した. 一方,カンボジア国境近くのタイ国南東部アランヤプラテート地域の三畳系で行った調査からは,この三畳系の少なくとも一部はカイメンや石灰藻類,マイクローブを主体とする生物礁起源の堆積物であることが明らかになった.得られた試料の薄片作成を進めた結果,いくつかの試料からAulotortus等の有孔虫化石が得られた.そのため,年代は後期三畳紀である可能性がある.この地域は地体構造的にはインドチャイナ地塊西縁にあたるが,これまでにこのような三畳系の報告はない. 上記の研究に加え,研究初年度に有孔虫生層序を報告したベトナム,ゲアン省に分布する中部三畳系石灰岩について,岩相層序,年代層序,地球化学層序のまとめとなる論文公表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,本年度は既存試料の処理を進め,その情報をもとにまず年度初めに本研究のメインターゲットであるランパン地域の上部ペルム系-三畳系の調査とアランヤプラテート地域での調査を,また年度末にはアランヤプラテート地域において精査を行う予定であった.更に,年度後半にはタイ国半島部で試料採取のための野外調査を行うことを計画していた.年度初めの調査については当初計画通りの調査を実施できたが,年度末に予定していた2件の調査に関しては,新型コロナウイルス感染症の蔓延のため中止せざるをえなくなった. 野外調査で得られた試料の処理に関しては,一部で更に追加の処理が必要なものはあるが,概ね当初計画通りに進んでおり,それにより研究対象とする三畳系石灰岩サクセッションの年代層序,岩相層序の枠組みが明らかにされつつある.また,申請時の研究計画には含まれていなかったベトナム,ゲアン省の中部三畳系石灰岩についても,岩相層序,有孔虫生層序,年代層序,地球化学層序の枠組みが明らかになり,それにより今後の研究の展開として更に東南アジア主要部のインドチャイナ地塊北東縁に分布するサムヌア堆積盆での三畳系有孔虫群集解析という展望が開けた.サムヌア堆積盆から産する中期三畳紀アニシアン期の有孔虫群集はCitaella dinaricaを主体とするもので,P-T境界での大量絶滅後,初めてその多様性を回復させた群集である.そのため,この群集の理解は本研究計画の中でも重要な位置を占める. このように申請時の研究計画にはなかった新たな研究の展開もあり,その点では研究自体は概ね順調に進んでいるといえる.一方,本年度後半に計画されていた2件の野外調査が新型コロナウイルス感染症の蔓延により実施できなかったことは,不可抗力とはいえ研究計画としては若干の遅れを生じさせている.この点に鑑み,全体的には「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
野外調査については,新型コロナウイルス感染症の蔓延のため昨年度後半に実施できなかったタイ王国での野外調査を早急に行う必要がある.それとともに,本研究のメインターゲットであるランパン地域では,下部三畳系石灰岩のいくつかの層準について追加試料の採取が必要である.また,これまでにその研究成果を2報の公表論文として報告したベトナム,ゲアン省の中部三畳系石灰岩に関連して,インドチャイナ地塊北東縁のサムヌア堆積盆の主要地域であるラオス北東部での野外調査も必要となってきた.この調査は当初,令和2年4-5月に実施予定で,ラオス側研究協力者とも調査行程などを具体的に打ち合わせ済みであったが,新型コロナウイルス感染症の蔓延のため延期となり,状況が良く成り次第実施予定の状態である.加えて,申請時の当初計画にあるように,中国の海外共同研究者とともに南部中国の下-中部三畳系セクションについても東南アジアでの三畳系有孔虫群集との比較検討のための野外調査(主に試料採取)も計画している.4年間の研究期間の3年目となる本年度は,これらの調査のいくつかを効率的に実施いていく必要がある. これまでの調査で得られた試料についてはその処理を進め,更にその成果を取りまとめ,国内外の学会で発表する.また,その中の一部については公表論文の作成を進める.特に,ランパン地域の三畳系での新たな岩相層序単元の提唱のための論文作成を早急に開始する. 昨年度後半以降の予期せぬ社会情勢の変化のため,野外調査の実施は遅れ気味ではあるが,研究自体は概ね順調に進展しているので,今のところ研究計画の大幅な見直しは必要ないと思われる.本研究は野外調査に寄るところが大きいので,まずは必要な野外調査を確実に実施することを考える.基本的には当初の研究計画に従い,今年度以降も研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の3月初旬および下旬に2回の野外調査(いずれもタイ王国)を計画し,調査旅費予算執行の手続き済みであった(執行予定額は444910円).2月以降に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延のため,この2つの野外調査を中止せざるを得なくなり,結果として452563円の次年度繰越金が生じた.
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