研究課題/領域番号 |
18K03831
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
大口 健一 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (30292361)
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研究分担者 |
福地 孝平 秋田大学, 理工学研究科, 特任助教 (40707121)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 微小はんだ試験片 / 初晶Sn / Cu/Sn系金属間化合物 / 銅-はんだ接合体 / せん断試験 / 有限要素解析 |
研究実績の概要 |
微小Sn-3.0Ag-0.5Cu (SAC)はんだ試験片の変形特性と内部の初晶Snの方位との関係と,Cu/Sn系金属間化合物(IMC)の変形特性の調査を主に行った.変形特性と初晶Snの方位の関係については,クリープ特性との関連を調査した.すなわち,引張り・ひずみ保持試験を実施し,ひずみ保持過程で生じる応力緩和の程度と初晶Snの長軸方位との関係を調査した.その結果,長軸方位が0°方向と90°方向に近い試験片では応力緩和の程度が小さく,45°方向に近い試験片では応力緩和の程度が大きいことが判明した.これにより,昨年度調査した引張強さと同様に,耐クリープ性も初晶Snの長軸方位が0°方向と90°方向に近いものが多いと高くなるのに対し,45°方向に近いものが多いと低くなることが判明した.このような初晶Snの長軸方位の影響は,微小SACはんだの疲労寿命にも現れることが推察されるため,ピエゾアクチュエータを用いた疲労試験機を製作し,現在,これを用いた疲労試験を実施している. Cu/Sn系IMCの変形特性については,その材料非線形性の有無についての検討をさらに進めた.そのために,IMC層を有する銅-はんだ接合体のせん断試験の有限要素解析(FEA)を実行し,IMC層が材料非線形性を有するとして実行した解析結果から,実際の試験で生じるIMC層でのき裂発生形態を推定した.実際にせん断試験を実施して,IMC層の観察やき裂発生箇所の化学組成分析などを行ったところ,それらの結果はFEAでの推定結果と一致した.このことから,Cu/Sn系IMCは材料非線形性を有すると判断した.この検討と並行して,Cu3Snのバルク試料を作製し,種々の温度でインデンテーション試験を実施した.その結果,100℃以上ではCu3Snはクリープ変形する可能性が高いことが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小SACはんだ試験片の変形特性と内部の初晶Snの分布形態の関係については,研究実績の概要に記した通り,引張強さと耐クリープ性の高低は,初晶Snの長軸方位と関係していることが判明した.すなわち,引張強さと耐クリープ性は,いずれも初晶Snの長軸方位が0°方向と90°方向に近いものが多いと高く,45°方向に近いものが多いと低くなる傾向を示した.これに関連して本年度は,初晶Snの方位が異なるSACはんだの引張試験のFEAを実行して,初晶Snの方位と引張強さとの相関性が生まれる原因についての考察も行った.その結果,方位が45°の初晶Snが共晶組織内で回転しやすいことが,引張強さの低下につながっている可能性のあることが判明した.初晶Snの長軸方位の影響は,疲労特性にも現れる可能性があるため,ピエゾアクチュエータを用いた微小試験片用の疲労試験機を製作した.これを用いて同負荷条件での疲労試験を複数回実施したところ,ヒステリシスループ形状と疲労寿命にばらつきがみられた. Cu/Sn系IMCの変形特性については,その温度依存性を調査する必要があるため,Cu3Snのバルク試料を作製して種々の温度でインデンテーション試験を実施した.また,Cu3Snの引張特性の温度依存性を調査するために,Cu3Sn層を有する銅線試験片を作製し,その引張試験を室温と200℃で実施した.インデンテーション試験からは,高温域でCu3Snはクリープ変形することが判明した.引張試験からは,200℃でのCu3Snの引張強さは,室温の60%程度になることが推察された. 予定していた初晶Snの成長方向を揃えた微小はんだ試験片の作製は断念したが,Cu/Sn系IMCの変形特性の調査では,新たな試験片の作製方法を提案することができたため,進捗状況はおおむね順調と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
微細はんだ接合部の強度信頼性を議論する上では,熱サイクルによる繰返し負荷下での変形シミュレーションの実行が必須となる.これを可能とするためには,(i)微小SACはんだ試験片内の初晶Snの長軸方位と繰返し変形特性の関係,(ii) Cu/Sn系IMCの変形特性の温度依存性,および(iii) Cu/Sn系IMCの繰返し変形特性を把握する必要がある. (i)については,現在も行っている疲労試験をさらに多くの負荷条件下で行い,そこでのヒステリシスループ形状と初晶Snの方位との関連を調査して対応する.(ii)と(iii)については,Cu3Sn層を有する銅線試験片を用いて種々の温度で引張試験を実施すると共に,この銅線試験片を用いた引張・圧縮繰返し負荷試験の実施を試みることで対応する. 最後に,これらの調査結果を整理して,微細はんだ接合体にさまざま負荷を与えるFEAを初晶SnとCu/Sn系IMCを強度構成部材とみなして実行し,その結果に基づいた新たな微細はんだ接合法の提案を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,Cu/Sn系IMC層を有する銅線試験片を作製し,それを高温域での引張試験に適用することができた.ただし,引張試験に用いたつかみ具は,引張・圧縮繰返し負荷試験には不向きであるため,上記の銅線試験片を用いてCu/Sn系IMCの繰返し負荷特性を調査するには,新たなつかみ具を製作する必要が生じた.この製作を次年度に行うため,製作費を繰り越すこととした. 次年度の助成金は,試験装置関連の消耗品,FEAソフトウェアのライセンス更新料,データ記録用消耗品,研究成果発表のための旅費,本研究の成果をまとめた論文の投稿費などとして使用する予定である.
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