研究課題/領域番号 |
18K03834
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
西村 正臣 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (40554580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子動力学 / カーボンナノチューブ / 座屈 / 弾性剛性係数 |
研究実績の概要 |
本研究では,カーボンナノチューブ(CNT)への軸方向圧縮時に生じる座屈挙動について,円筒形状が一部から崩れるような局部座屈挙動と円筒形状を保ったまま湾曲するような全体座屈挙動の発生機構の違いについて,原子レベルでの力学的安定性の観点から評価することを目的としている. 平成30年度は,これまでも対象としていたarmchair型の多層CNTを対象として,層数や寸法などを変化させた種々のモデルを作成して,分子動力学法による圧縮シミュレーションを実施することで生じる座屈挙動を検討した.いずれのモデルでも,軸方向長さを長くして,最外層の直径と軸方向長さの寸法比であるアスペクト比を大きくすることで,座屈挙動が局部座屈から全体座屈に移行することが確認できた.一方で,局部座屈と全体座屈の境界となるアスペクト比はモデルごとに異なっており,層数や最外層もしくは最内層の直径などで整理することが難しいことが明らかになった.さらに,各原子位置における応力ひずみ勾配に相当する原子弾性剛性係数を評価したところ,いずれのモデルでも,局部座屈発生箇所と原子弾性剛性係数マトリクスの第2最小固有値が負となっている領域が一致していたが,全体座屈時には第2最小固有値の変化が無いことが確認でき,第2最小固有値の正値性変化は円筒形状の変化に対応することが示された. また,多層CNTの座屈挙動についての理解を深めることを目的として,CNT単体だけではなく周辺にポリマー構造を充填したモデルや内部にフラーレンを含有したようなモデルを対象とした座屈挙動についても検討しており,周辺の構造から受ける不均一な相互作用によって,局部座屈が誘起されることなども分子動力学シミュレーションにより明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は,アスペクト比の違いによる座屈挙動の違いについてのデータベースを作成するために,層数や長さ寸法を変化させた様々な多層をCNTを対象する分子動力学シミュレーションを実施して,それぞれの座屈挙動について検討した.全体座屈を検討するためにアスペクト比の大きなCNTを解析するには,より多くの原子を含んだ解析モデルを対象とする必要があり,予定よりも計算時間を要したために,当初の予定よりもわずかながら進捗が遅れた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施した様々なモデルを対象とした座屈挙動について整理して,各モデルにおいて局部座屈と全体座屈を分けている要因について詳細に検討することに加えて,CNTを構成する原子配列方向の違いや欠陥による影響などについても検討する. さらに,局部座屈については原子弾性剛性係数による検討で評価できることが示されたので,今後は全体座屈時における力学的不安定性を評価する方法についても,検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んでいたよりもわずかに安価に研究が進んだために,次年度使用額が生じた.次年度は発表件数が増える見込みなので,旅費などの経費として使用する予定である.
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