本研究では,カーボンナノチューブ(CNT)への軸方向圧縮時に生じる座屈挙動について,円筒形状が一部から崩れるような局部座屈挙動と円筒形状を保ったまま湾曲するような全体座屈挙動の発生機構の違いについて,原子レベルでの力学的安定性の観点から評価することを目的としている. 局部座屈の発生に関して検討するために実施した,フラーレンを内包した多層CNTを対象とした分子動力学シミュレーションについて改めて評価した.フラーレンとCNT内層との原子間相互作用が,円周方向に不均一性である場合は局部座屈の発生を誘起して座屈強度が低下した.一方,原子間相互作用が軸方向のみに不均一な場合には,層数が少なければCNTのみで生じていたシェル座屈が局部座屈に変化して座屈強度が向上したが,4層以上になると局部座屈の発生位置とフラーレンの位置との相関性が薄れた.また,局部座屈の発生については,いずれの多層CNTモデルでも原子弾性剛性係数の固有値により評価出来ることが示され,固有ベクトルの対応から,面外方向のせん断に対する抵抗が完全に失われた箇所から局部座屈が生じることを明らかにした. さらに,CNT周辺の限定空間にポリエチレンを充填したモデルを対象とした解析では,局部座屈と全体座屈の座屈挙動が外部のポリマー構造の影響を受けて,座屈強度が変化することを明らかにした.長さ寸法が短く局部座屈が支配的となるモデルにおいては,周辺のポリマーからの原子間相互作用によって応力状態が不均一となることで局部座屈が発生しやすくなり,複合モデルの方が強度が下がった.一方で,長さ寸法が長く全体座屈が支配的となる場合には,周辺にポリマーがあることによって,全体座屈に対応する曲げ変形が生じにくくなり,座屈強度が局部座屈における値に近づくことを明らかにした.以上の一連の成果をまとめて,英文誌に投稿した.
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