研究課題/領域番号 |
18K03846
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大宮 正毅 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30302938)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アクチュエータ / 高分子 / 水素吸蔵合金 / パラジウム / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,水素吸蔵合金であるパラジウムを電極とするイオン導電性高分子アクチュエータの創生と,その機械的・電気化学的特性を明らかにすることを目的としている.イオン導電性高分子アクチュエータは,電場を印可することにより,高分子電解質膜の内部に含有された陽イオンが水分子を伴って陰極側へ移動する.これにより電解質膜内部で体積膨張の偏りが生じ屈曲運動を示す.一方,パラジウムは水素吸蔵時に大きな体積膨張を示すため,水和陽イオンの移動とパラジウム電極金属の体積膨張を同時に利用することで,低電力,高出力なアクチュエータを創生することができる.しかし,パラジウムの水素吸蔵・放出に伴う電極金属の劣化,電極/電解質膜界面における機械的・電気的結合状態,水溶液中での電気化学反応など不明な点も多く,本研究では,水素吸蔵型イオン導電性ハイブリッドアクチュエータを製作し,その機械的・電気化学的特性評価を行うことを目的とした. 今年度は,パラジウム薄膜における水素吸蔵に伴う変形特性を把握するために,高分子電解質膜および塩化ビニルを基材とし,その表面に無電解メッキ法でパラジウム薄膜を製膜し試験片を製作した.そして,電極膜厚,試験片長さを変えた試験片を用意し,ポテンショスタットにより種々の電圧を印可し,試験片先端部の変位をレーザー変位計で測定した.さらに,ひずみゲージを用いて,電極上のひずみから,各膜のヤング率を求め,試験片に生じる曲げモーメントを推定する手法を構築した.これらの手法を用いて,試験片の変形時に生じる曲げモーメントを,内部イオン移動に起因するものと,水素吸蔵に起因するものに分離し,試験片変形に及ぼすそれぞれの寄与率を算出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,水素吸蔵合金であるパラジウムを電極とするイオン導電性高分子アクチュエータの創生と,その機械的・電気化学的特性を明らかにすることを目的としている.今年度は,パラジウム薄膜における水素吸蔵に伴う変形特性を把握するために,高分子電解質膜および塩化ビニルを基材とし,その表面に無電解メッキ法でパラジウム薄膜を製膜し試験片を製作した.そして,電極膜厚,試験片長さを変えた矩形状の試験片を用意し,ポテンショスタットにより種々の電圧を印可し,試験片先端部の変位をレーザー変位計で測定した.さらに,ひずみゲージを用いて,電極上のひずみから,各膜のヤング率を求め,試験片に生じる曲げモーメントを推定する手法を構築した.これらの手法を用いて,試験片の変形時に生じる曲げモーメントを,内部イオン移動に起因するものと,水素吸蔵に起因するものに分離し,試験片全体の変形に及ぼすそれぞれの寄与率の算出に成功した.その結果,電圧,電極膜厚とイオン移動,水素吸蔵により生じる曲げモーメントは,ともに正の相関があるが,試験片長さに対しては,イオン移動により生じる曲げモーメントは正,水素吸蔵による曲げモーメントは負の相関があることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
イオン導電性高分子アクチュエータの応答に影響を及ぼす因子として,化学的因子と機械的因子がある.今年度,イオン駆動による変形と水素吸蔵による変形とを分離し,それぞれの寄与率を算出することができたので,今後は,駆動環境によりそれぞれの寄与度がどのように変化するかを調査する予定である.さらに,電極金属自体の結晶構造と局所機械的強度の把握,電極金属における電気化学反応,結合界面における機械的・電気的特性の変化を明らかにしていく.これらは,長期間アクチュエータ機能を維持し信頼性を確保するためには必要な知見であり,重要な基礎データとなる.具体的には以下の項目を実施する. 1) 無電解メッキ法で成膜したパラジウム薄膜における水素吸蔵・放出に伴う結晶構造変化と局所機械的強度特性の把握するために,高分子電解質膜上に無電解メッキ法で成膜したパラジウム薄膜の水素吸蔵・放出繰り返し試験を実施する.その際に,パラジウム結晶構造の変化を観察する.また,ナノインデンテーション試験を実施し,局所強度の定量的なマッピングを行う. 2) アクチュエータにドープするイオン種や水溶液のpHなど駆動環境を変化させ,アクチュエータ動作時の電極金属における電気化学反応を解明する. 3)アクチュエータ駆動前後の電極膜と高分子電解質界面を,高分解能走査型電子顕微鏡(FE-SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し,界面に存在する元素をX線光電子分光装置(XPS)で明らかにする.さらに,インピーダンス測定により,電極膜と高分子電解質界面における電気二重層容量の測定を行い,原子スケールの構造変化と巨視的な屈曲運動との関連付けを行う.
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