研究課題/領域番号 |
18K03857
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
清水 一郎 岡山理科大学, 工学部, 教授 (10263625)
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研究分担者 |
竹元 嘉利 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (60216942)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 機械材料 / 準安定βチタン合金 / 変形双晶 / 塑性加工 / 二軸圧縮試験 |
研究実績の概要 |
本研究は,二元系準安定βチタン合金において,特定範囲の添加元素割合で活動する変形双晶に着目し,添加元素量や負荷様式がその活動に及ぼす影響を理解するとともに,多軸応力下において変形双晶がもたらす塑性加工性向上機構の解明を目指して行うものである. 2019年度は2年目として,まず,変形双晶が活動しやすいTi-14mass%Mo合金を中心組成として用意した数種類のTi-Mo合金に対し,溶体化焼入れ処理条件について検討を行うとともに,予備圧縮試験によって基礎的な力学的性質を取得した.同時に,走査型電子顕微鏡を用いた結晶学的方位解析を実施した.その結果,本研究に適した共通の熱処理条件として950℃30分保持氷水焼入れを選択し,Mo添加量によって異なる力学的性質について基礎となる結果を得た.また,Ti-14Mo合金を中心に,塑性変形の進行に伴う変形双晶の活動を確認した. 次に,各Ti-Mo合金素材から直方体形状の試験片を切り出し,前年度に整備した二軸圧縮試験装置を用いて単軸および二軸圧縮試験を実施した.その際,素材が有する塑性異方性にも配慮した.得られた力学的特性と結晶学的方位解析結果から,変形双晶の活動が合金組成に依存すること,活動した双晶の割合によって後続のすべり変形時における流れ応力が変化すること,圧縮変形様式が変形双晶の活動に少なからず影響すること,等の新たな知見を得た. 以上の検討に加え,各Ti-Mo合金に対して引張りを含む各種力学的試験を適用し,総合的な冷間加工性評価を行った.本研究の主対象である変形双晶がもたらす力学的特徴に着眼して調べた結果,条件によっては体心立方構造であるβ型Ti合金よりも優れた冷間加工性をもたらす可能性が確認された.この内容については学会にて公表している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画における2019年度の主な実施内容は「①前年度の予備試験結果を基にした多軸試験による力学的性質評価」「②変形双晶を含む微視的変形機構が力学的性質に及ぼす影響の解明」の2点であった. ①については,前年度の宿題であった予備的な力学的試験を,切り出した数種類のTi-Mo合金試験片に対して行い,適切な熱処理条件の決定に加え,今後の研究遂行に不可欠な合金添加量と力学的性質の関係について基礎的な情報を得た.続いて,二軸圧縮試験装置を用いた多軸試験を複数の異なる試験条件で実施し,多軸応力下での力学的性質に関する総合的なデータ取得を行った. ②については,①で取得した巨視的な力学的性質の評価結果に加え,電子顕微鏡による結晶学的解析結果を組み合わせることにより,活動した微視的塑性変形機構と力学的性質の関係について検討を進めているところである.まだ,各塑性変形機構がもたらす力学的特徴を分離評価するには至っていないものの,変形双晶と後続すべり変形との相互関係等について徐々に新たな知見を得つつある段階である. 以上の通り,本研究目標の達成に必要な試験材料,試験装置,試験方法,データ処理技術等は確立済みであり,今のところ本研究はほぼ計画通りに進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究はおおむね順調であり,研究遂行の支障となるような問題は発生していない.2020年度はこれまでの研究成果を踏まえ,当初の研究目的を達成するために,次の通りに研究を進める予定である. (1)合金組成の異なるTi-Mo合金に対して,数種類の異なる二軸応力下での力学的応答を調べた結果と,各応力条件下における変形双晶を中心とした各種塑性変形機構の活動状況に基づき,添加元素量や負荷様式に依存して変化する変形双晶およびすべりの活動がもたらす力学的特徴の解明を進める.なお,結果の整合性が不十分な応力条件が残っているため,追加のデータ取得も平行して実施する. (2)(1)の検討結果から,各Ti-Mo合金において,Mo添加量によって異なる主要な塑性変形機構を,電子顕微鏡を利用しながら巨視的および微視的な観点から多面的に解析することにより,各機構が力学的性質に及ぼす影響の切り分けを行う. (3)本研究の最終段階として,幾つかの想定される実製品塑性加工成形プロセスを考慮しつつ,変形双晶を有効利用するためのプロセス最適化を検討し,冷間塑性加工性を向上可能なプロセス設計指針の提案を目指す.同時に,変形双晶と力学的性質の関係を定式表現することにより,その影響を表現可能な構成関係の構築を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に使用した物品費の総額は,今年度の当初予算における物品費配分額とほぼ同じであり,昨年度から繰り越されていた電子顕微鏡用消耗品などのための予算が,電子顕微鏡が好調であったためそのまま据え置かれている状況である.一方,3月に予定していた学会が全て中止となったため,それらに計上していた旅費が加えて繰り越されている.今年度もしばらくは学会等の開催が危ぶまれる状況であるが,研究を進めるにあたって各種消耗品の交換や追加が必要となることから,次年度使用額はそれに充てる計画である.
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