研究課題/領域番号 |
18K03860
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
末次 正寛 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50259884)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非線形超音波 / 分調波 / 高調波 / 非破壊検査 / フェーズドアレイ法 |
研究実績の概要 |
昨年度は,二つのアルミ合金ブロックを用いた実験により,周波数 f = 1.0, 2.25, 5.0 MHzの縦波超音波の入射によって固体接触境界部から分調波が発生することが確かめられた。この分調波の強度は入射周波数や接触圧力に関係なく,概ね基本周波数の強度に対して 1/10程度であることも明らかとなった。本研究の大きな目的の一つは,閉口き裂部から強い非線形超音波を発生させることにあるため,本年度はこの点に注目して検討を行った。 部材中に存在する実際の閉口き裂面は,アルミ合金ブロックの接触境界面と違って場所によって開口量が異なり,形状や接触の状況が複雑である。従って,閉口き裂部全体に(平面)超音波を漠然と入射しても,非線形超音波の発生状況の詳しい把握は期待できない。そこで,閉口き裂部のある1点に焦点を絞って超音波を入射する実験を繰り返し,定量的な発生条件(例えば,開口量との関係等)を明らかにすることが必要と考えた。この目的のため,部材中の任意の場所に焦点を絞った超音波を入射させることができる手法を用いた。利用した手法はフェーズドアレイ法と呼ばれるものであり,特殊な超音波発振器と超音波プローブが必要となる。この手法は,複数の圧電素子への印可パルスの遅延時間を個々に制御し,各素子から発生した超音波を干渉させて任意の場所に焦点絞ることができるものである。意図する位置を入力すれば装置が遅延時間を自動で設定するが,こちらが指定した焦点の位置と実際の焦点位置が大幅に異なることが知られている。上述のとおり,本研究の目的から正確に閉口き裂部の意図する1点に焦点を持った超音波を入射させる必要があるため,まず初めにこの問題に取り組んだ。閉口き裂を有する耐熱ガラス試験片を用いた光弾性超音波可視化法により,実際の焦点位置を計測し,設定位置との比較検討を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
こちらが意図する閉口き裂部の正確な任意の点に収束型超音波を入射させる目的のため,光弾性法を応用した超音波可視化手法によって焦点位置を実測する検討を行っている。この実験は,電圧発信器が超音波発振プローブへ電圧を印可した瞬間の信号とストロボ光源の発光タイミングを同期させることが必要である。これまで使用して来た一般的な超音波機器には,この同期信号アウトプットが(例えば BNC端子等で)実装されているのが普通であったが,今回購入したフェーズドアレイ超音波探傷器は最低限の機能のみを有する機種であったため,この機能が無いものであった。そこで,別用途の出力端子(スキャナ制御用 16ピン LEMO端子)中に同期信号が含まれることを探し出し,特別注文のコネクタを入手して目的を達成することができた。これら一連の作業のため工程がやや遅れている状態にある。また,フェーズドアレイ法は,複数の圧電素子へのパルス印可タイミングを意図的にずらして任意波形の超音波を入射させるものであるため,圧電素子への電圧印可タイミングが素子の数だけ複数存在する。超音波を光学的に可視化する際に問題となる同期の解決にも時間をかけざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
圧電素子への電圧印可タイミングとストロボ光源との同期の問題により,64個の圧電素子中 16個のみを用いた実験しか実現できていないが,この条件下においては入射超音波の伝ぱ状況が連続可視化像として観察されており,焦点位置の実測がある程度可能となっている。しかしながら,物体へ入射された超音波の伝ぱ過程はホイヘンスの原理に基づいた理想的なものとは異なり,波の伝ぱ収束過程は極めて不明瞭である。そのため,視覚に頼らず輝度値分布等を利用した数値解析的な処理が必要と考えているため,この手法の検討・実用を進める。 以上,狙った位置へ正確に焦点を絞った収束超音波を入射させる手法を確立後,実際の閉口き裂を有する試験片を用いて応用的な検討を実施する。すなわち,超音波入射位置を少しずつ変えて閉口き裂全体をスキャンし,各部から発生する非線形超音波を観測して記録,検討を行う。発生した非線形超音波の受信は,本来入射超音波プローブと同じフェーズドアレイタイプを利用するのが良いと考えられるが,使用している装置が 2探触子法に対応していないため通常の単体圧電素子プロープで受信する予定としている。この受信波形を解析して高調波や分調波成分を整理し,これらの発生条件を明らかにしたいと思っている。 なお,数値解析ソフトのMATLBを利用した時間領域有限差分法 (FDTD法)プログラムを作成して一連の実験へ援用しているが,このプログラムをフェーズドアレイ法対応へ改良し,入射波の振幅や波数,また閉口き裂部の残留応力値や開口変位量が非線形超音波の発生状況に及ぼす影響について考察を加える予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
閉口き裂部から発生する非線形超音波の挙動を研究するためには,試験片内に閉口き裂を導入する必要がある。き裂の進展は破壊現象であるため一般的に不安定であり,この目的には多くの材料を必要とするため予算を計上していた。本年度は,研究段階としてここまで進むことを予定していたが,入射収束超音波の焦点位置の正確な測定で装置や実験手法の問題が明らかとなり,この解決に多くの時間を割いた。以上のように,実験・研究過程がやや遅れている関係に伴って,次年度使用額が発生している。
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