これまでの検討で,固体境界部に入射した縦波超音波は,疎の部分で反射し,密の部分で透過する(と思われる)状況が可視化されている。しかし,現在用いている通常の光弾性応力可視化法の場合,主応力の位相差の自乗に比例した輝度情報となる原理より,縦波(粗密波)の圧縮部分と引張部分の区別がつかない。そのため,上に説明した固体境界部を透過した波は密な部分(圧縮相)であることは間違いないとは思うが確認が不十分である。そこで,通常の可視化装置に1波長板(λ= 560 nm)を試験片と検光子の間に挿入する鋭敏色法と呼ばれる手法によって超音波の観察を行った。この手法は、1波長板(鋭敏色板)と試料との光路差が相加的に組み合わさった部分は青みが強く、相減的に重なった部分は赤みが強くなる特徴があり、縦波(粗密波)の引張相と圧縮相を色で区別して可視化することができるというものである。本法を用いて,ガラス中の微小開口き裂(開口幅は 0.2μm以下)へ入射した超音波の伝ぱ挙動を観察した。実験時の条件下においては,【青-橙-青】の一群の超音波が伝ぱしていく様子が連続的に可視化されており,検定の結果,青が圧縮相,橙が引張相である。この一群の波が閉口き裂部へ到達した際,先頭の青い部分(圧縮相)はき裂を透過し,次の橙の部分(引張相)はき裂面で反射し,最後の青い部分(圧縮相)は再びき裂を透過していることが明確に可視化された。 以上より,非線形超音波法の高調波発生原理である,き裂の開閉口挙動が,実験的な直接観察によって明確に確認することができた。なお,この現象は半波整流状態と解釈できそうなので画像の輝度情報を用いた周波数解析も試みたが,この結果からは高調波の明確な発生は確認できなかった。この問題に関しては今後の検討を要する。
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