研究課題/領域番号 |
18K03861
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
和田 明浩 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60321460)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | FRP / 成形条件 / 硬化度分布 / 超音波 / 非破壊検査 |
研究実績の概要 |
超音波測定の対象となる板厚方向に樹脂硬化度分布を有するFRP板の成形手法について検討した.研究代表者はこれまでに,バギング成形と電気炉の組合せによるFRP板の低圧成形法を確立しており,成形温度が樹脂硬化度に与える影響を明らかにしている.本年度は,FRPの現場施工により近い成形条件とするため,バギング成形とホットプレートの組み合わせによる新たなFRP成形法について検討した. 電気炉による均一加熱成形では,板厚方向に硬化度分布を有するFRP板の作製は困難であるが,ホットプレートによる片側加熱成形では試料上下面で温度差を生じさせることが可能であり,上面に冷却装置を設置することで,板厚方向に任意の温度勾配を与えることができる.本年度は,片側加熱成形に必要となる特殊金型の設計製作を行うとともに,上面に設置する空冷装置を設計製作し,その性能評価を行った. 成形試料はCFRPとGFRPの2種類とし,材料ごとに適した成形条件の探索を行った.成形試料の樹脂硬化度を評価するためにバーコル硬度計による試料表面硬度の評価,およびマイクロビッカース硬度計による試料断面の硬化度分布評価を行った.板厚6mm~10mmの試料を成形した結果,ホットプレートの加熱温度と空冷装置の冷却能力を調整することで,加熱面は完全硬化し,冷却面に向けて板厚方向に樹脂硬化度分布を有する試料が成形できることを確認した.また,上記手法で得られたFRP板を用いた予備実験により,板厚方向の硬化度分布が超音波伝播特性に与える影響を確認した. 本年度の研究により,次年度以降の超音波測定対象試料を安定的に入手できる目途が得られた点は意義深い.また,超音波測定により,板厚方向の樹脂硬化度分布を評価できる可能性が示された点も重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り,初年度は以後の超音波測定の対象となる板厚方向に樹脂硬化度分布を有する試料の成形手法の検討を行った.評価対象として,プリプレグから成形したCFRP,SMC(Sheet Molding Compound)から成形したGFRPの2種類を用い,バギングフィルムを用いた真空引きとホットプレートによる片側加熱を組み合わせた独自の低圧成形法を確立した. FRPの硬化度測定にはバーコル硬度計が多用されているが,硬度計の構造上,試料断面の計測には適さない.そこで,マイクロビッカース硬度計を用いた試料断面方向の硬化度分布の評価を試み,定性的ではあるが板厚方向の硬化度分布を評価できることを確認した.また,片側加熱成形法において加熱条件と冷却条件をコントロールすることで,板厚方向の硬化度分布が異なる試料成形に成功した. 上記手法で成形したFRP板に対して斜角入射法による超音波測定を実施し,超音波入射面が硬化側か未硬化側かにより波の伝播特性に相違が生じることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した成形技術を用いて,板厚方向の樹脂硬化度分布が異なるFRP板を成形し,超音波による樹脂硬化度測定を試みる.FRP板の硬化側表面から入射された超音波は,未硬化部で著しく減衰して硬化側裏面に達することができないため,結果的に硬化側表面付近に局在化して伝播する「擬似表面波」を形成すると考えられる.次年度は,この「擬似表面波」の伝播特性を詳細に調べる.入力波の周波数と波の浸透深さの関係を理論的に求めることは難しいため,特殊な探触子を用いて断面方向から超音波振動を検出して入力周波数に対する波の浸透深さや振動モードを実測する.入射波は比較的低周波とし,超音波の送受信効率を高めるために探触子の最適な傾斜角の探索も行う.受信波分析では,受信波のウェーブレット変換(時間周波数解析)による振動モードの特定も試み,各モードの速度分散性(群速度の周波数依存性)と樹脂硬化度の関係性を調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の遂行には,超音波計測装置としてパルサレシーバが不可欠である.当初計画では,現有のパルサレシーバを使用して研究実施する予定であったが,年度途中で現有のパルサレシーバが故障し,超音波計測に支障が生じた.パルサレシーバは高額であるため,次年度配当予算だけでは購入できないため,今年度予算の一部を次年度に繰り越し,次年度予算と合算して新規購入する計画である.これに伴い,当初次年度に計画していたタイヤ探触子の購入を見送り,現有の超音波探触子と追加購入予定の探触子を活用して超音波計測を実施する計画である.
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