研究課題/領域番号 |
18K03861
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研究機関 | 神戸市立工業高等専門学校 |
研究代表者 |
和田 明浩 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60321460)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | FRP / 硬化度分布 / 超音波 / 擬似表面波 / 非破壊検査 |
研究実績の概要 |
前年度に製作した特殊成形装置により,CFRPおよびGFRPそれぞれについて,標準成形板および板厚方向に樹脂硬化度分布を有する未硬化板を成形して評価対象とした.マイクロビッカース硬度計で試料断面の硬度測定を行い,板厚方向の樹脂硬化度分布を数値化した後に,同試料に対して板厚方向および面内方向の超音波測定を行った.超音波計測では,超音波の入射面を硬化側と未硬化側のそれぞれについて行い,入射面による超音波伝播形態の比較を行った. 実験の結果,板厚方向測定,面内方向測定いずれにおいても未硬化板で超音波伝播速度の低下が確認できた.また,板厚方向測定では超音波入射面による違いは見られなかったのに対し,面内方向測定では入射面による違いがみられ,伝播速度は硬化側入射の場合が未硬化側入射の場合より速くなった.これは,超音波が入射面付近の特性を反映していることを示唆する結果であり,本研究課題の主題である「擬似表面波」の存在を示唆するものである.本年度は,この「擬似表面波」の伝播特性を評価するために,ウェーブレット変換による時間周波数解析を行った.解析の結果,面内方向測定において未硬化側から超音波入射した場合は,検出波の先頭領域に低周波数の波が観測され,この低周波数の波は板厚方向の樹脂硬化度分布が大きい試料ほど,より顕著に観察されることが分かった. 本年度の研究により,「擬似表面波」の存在を裏付けるデータが取得でき,その伝播形態が板厚方向の硬化度分布により変化することが確認できたことは意義深い.最終年度となる次年度は,実測結果とシミュレーション結果の比較から「擬似表面波」の性質を明らかにすることを試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通り,1年目は評価対象となる板厚方向に樹脂硬化度分布を有するFRP板の成形方法の確立を行い,2年目となる本年度は,作製した評価対象試料を用いて超音波計測実験を行った.本研究では,板厚方向の樹脂硬化度分布と超音波伝播特性の関係性を調査するため,作製したFRP板の樹脂硬化状態を数値化する必要がある.本年度はこの数値化の手法として,マイクロビッカース硬度計による試料断面の硬度測定を試み,定性的ではあるが,断面方向の樹脂硬化度分布の数値化が可能であることを示した.また,超音波測定では,当初の予定通り板厚方向および面内方向のそれぞれの計測を実施し,入射面による超音波伝播形態の違いを分析することで「擬似表面波」の存在を示唆する結果を得た.さらに,CFRP,GFRPそれぞれの試料に対して,板厚方向の硬化度分布が異なる複数の試料を成形して評価することで,板厚方向の硬化度分布と超音波伝播形態の関係性に対する知見を得た. このほかに本年度は,超音波伝播形態の特徴を把握するために,ピン型探触子を用いて試料断面方向からの超音波計測も試みたが,板厚方向の計測位置により材料硬度が異なるため,試料とピン型探触子の接触状態を一定に保つことが難しく,有意なデータを取得することができなかった.そこで,面内伝播波のウェーブレット変換による時間周波数解析を行った結果,未硬化側から超音波入射した場合に観察される先頭領域の低周波数の波が板厚方向の樹脂硬化度分布に依存していることを確認した. 以上のように,本研究課題は2年目となる本年度まで概ね予定通りに進捗しているが,実験データ量が不足していることから,今後さらなるデータの追加が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる3年目は,2年目までに取得した実験データを補完する目的で,板厚方向に樹脂硬化度分布を有するFRP板の超音波計測実験を継続する.前年度までは面内方向測定において,超音波の送受信面を同一表面としていたが,今年度は送信探触子と受信探触子を試料を挟み込むような位置に設置することで,試料の板厚方向に透過する超音波強度を計測し,板厚方向に硬化度分布を有するFRP板の超音波伝播形態に関する補足データを取得する. また,今年度は当初の計画通り,FDTD法(時間領域差分法)を用いた超音波伝播シミュレーションを試みる.ここでは,板厚方向に硬化度分布を有する材料モデルをコンピュータ上で作成し,超音波伝播シミュレーションを行うことで「擬似表面波」が発生するメカニズムを調査する.実験では限られた硬化度分布パターンしか扱えないが,シミュレーションでは任意の材料特性を持たせることが可能なため,板厚方向の硬化度分布のパターンを様々に変化させた材料モデルに対して超音波伝播シミュレーションを行い,実験で観測された超音波伝播特性の再現を試みる.この際,樹脂未硬化を表現するパラメータとして,超音波の減衰率と伝播速度が考えられるため,これらのパラメータの板厚方向の分布と超音波伝播形態の関係について詳細に調査する. 最後に,上記で得られた知見をもとに,「擬似表面波」の計測結果から板厚方向の硬化度分布を見積もる手法について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,ピン型探触子を使用して試料断面方向からの超音波計測を試みたが,未硬化試料の測定ではピン型探触子と試料の接触状態を安定的に保つことが困難であったため,有意なデータを取得することができなかった.当初は,ピン型探触子を複数種類購入して実験に用いる予定であったが,実験計画の変更に伴いその購入を見送ったため,今年度未使用額が発生した.今年度未使用額は次年度に繰り越し,実験計画の変更に伴い新たに製作する予定の実験装置の製作費用に充てる計画である.
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