研究期間の最終年度にあたる本年度は,前年度までに得られた板厚方向に樹脂硬化度分布を有するFRP板の超音波伝播形態を再現するため,時間領域差分法であるFDTD法を用いた超音波伝播シミュレーションについて検討した.研究期間の1年目には,バギング成形とホットプレートを組み合わせた片面加熱成形において,上面に空冷装置を設置して温度勾配を制御することで,板厚方向の樹脂硬化度分布をコントロールする手法を確立した.2年目には,マイクロビッカース硬度計による試料断面の硬度測定より,定性的ではあるが,断面方向の樹脂硬化度分布の数値化が可能であることを示した.また,試料表面から超音波を入射することで,硬化側表面付近に局在化して伝播する「擬似表面波」が発生すること確認した.さらに,板厚方向の樹脂硬化度分布の相違により「擬似表面波」の伝播形態が変化すること,および超音波の入射面が硬化側か未硬化側かにより,観察される「擬似表面波」の周波数帯に相違があることを明らかにした.本年度は,差分法の一種であるFDTD法による超音波伝播シミュレーションを行い,これまでに得られた超音波計測結果の再現を試みた. 本研究では,樹脂未硬化部における超音波の著しい減衰を表現するため,FDTDシミュレーションの支配方程式に減衰効果を取り入れる手法について検討した.運動方程式と構成方程式にそれぞれ減衰項を導入して支配方程式を修正し,各減衰項が超音波伝播特性に与える影響を調査した.その結果,運動方程式に減衰項を導入することで,実験で観察された「擬似表面波」の再現が可能であることを明らかにした.また,本シミュレーション手法による検討の結果,超音波伝播速度に基づく未硬化層厚さの評価は困難であるが,周波数特性の変化や超音波減衰に基づいて未硬化層厚さを計測できる可能性があることを示した.
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