本研究の目的は、水素分離膜などに利用されるパラジウムの水素脆化メカニズムを明らかにすることである。本研究では、水素化物まわりで起こる水素拡散、転位の生成・運動などの原子スケールの現象に着目し、これらがどのように関連して、水素脆化を引き起こすのか解明する。 最初の2年間は、水素濃度が0.1から0.7までのパラジウム-水素系単結晶の一軸引張り特性を調べた。水素濃度が0.1のとき(α相)の応力ひずみ線図は水素を含まない系と同じような傾向を有していた。水素濃度が0.5のとき(α相とβ相の共存状態)の最大応力は、水素濃度が0.1のときと比較して著しく小さく1/10程度であった。次に、それぞれの水素濃度において生成した結晶欠陥について調べた。水素濃度が0.1のとき、塑性変形は主として部分転位によって生じることがわかった。水素濃度が0.5のときは、引張りを負荷する前の状態においても多数の部分転位が存在した。これはα相とβ相の界面に生成した界面転位と考えられる。最終状態において生成した転位数は水素濃度が0.1のときの10倍以上であった。以上より、α相とβ相の2相共存状態では初期界面転位の存在により著しく引張強度が低下すると結論づけられる。 最終年度は、ナノ多結晶の一軸引張りシミュレーションを行った。はじめに、ナノ多結晶化したときの水素化物の状態を確認した。単結晶では水素濃度が0.5のとき、2相共存状態となるが、ナノ多結晶ではこれが解消され一様な水素分布となった。ナノ多結晶の引張強度は水素の影響によって低下するが、単結晶ほど顕著ではなかった。
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