研究課題/領域番号 |
18K03868
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
朱 疆 東京工業大学, 工学院, 助教 (70509330)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体吸収マグネシウム合金 / 組織制御 / バニシング加工 / 分解速度最適化 / 結晶方位 / 腐食速度 |
研究実績の概要 |
マグネシウムは人間にとって重要な必須元素であり,インプラント材に用いることで,患部が完全に治癒した後,体内に徐々に溶けて消失するので,低侵襲医療デバイスとして理想的な生体吸収材料である.しかし,生体吸収マグネシウム合金の体内における最適強度の実現および分解速度の制御が依然課題となり,医療用デバイスの応用にはまだ十分に実用化されていない.そこで,本研究は生体吸収マグネシウム合金を用いた高機能化した低侵襲医療デバイスの実用化を実現するため,バニシング加工によりマグネシウム合金の表層部結晶組織を制御することで,生体吸収マグネシウム合金製品の任意の部分の強度制御および分解速度の制御を実現することを目的としている. 平成30年度には,まず加工パラメータを精密に制御可能なバニシング加工システムを構築した.従来のバネを内蔵したバニシング工具は,加工開始する前にバネに与える与圧を事前に調整する必要が有るため,場所ごとに塑性ひずみを精密に導入することが困難である.そこで,本研究はロードセルとアクチュエータを内蔵した力制御可能なボールバニシング工具を提案した.加工中に生じる荷重の測定値をリアルタイムでフィードバックすることで,空気圧サーボの出力を調整できるオンマシンバニシング力制御システムを構築した. また,生体吸収マグネシウム合金AZ31の試験片に対して,細かく加工条件を変更し,加工による得られた表面改質層に対して,粗さ計測,硬さ計測,残留応力分析を行い,加工条件が表面特性に与える影響を明らかにした.加工した試験片の表面観察,断面観察,XRD解析を行うことによりバニシング加工が素材表面の結晶粒径,結晶方位などの変化へ与える影響を実験的に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度では,まず加工パラメータを精密に制御可能なバニシング加工システムを構築した.構築したシステムを用いてAZ31の試験片に対してバニシング力,送り速度,パス間隔などの加工条件を変更しながら加工実験を行い,構築した加工システムの有効性が確認した. 非接触粗さ測定機を用いて得られた表面を測定し,加工パラメータが表面粗さに与える影響を評価した.結果として,パス間隔が表面粗さRaへの影響は支配的であることが分かった.また,光学顕微鏡を用いて試験片の表面観察及び断面観察を行い,バニシング加工による試験片表面の結晶粒が微細になり,約0.5mmの加工硬化層が得られることが確認した.加工パラメータが得られた表面の硬さへ与える影響を評価した結果,バニシング力が表層部の硬さ変化に重要な要因であることが分かった.さらに,微小部X線回折装置を用いて試験片のスペクトルを測定し,バニシング加工を実施することにより試験片の(10-10)方向の結晶数と(0002)方向の結晶数両方増加したことが確認した. 以上により,加工パラメータを適切に設定することにより,生体吸収マグネシウム合金の結晶粒径および結晶方位をコントロールできる可能性を示した.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度には,人体の体内環境を模擬した腐食実験装置を試作する予定である.腐食速度を適切に評価するために,擬似体液の成分(塩分,タンパク質,アミノ酸など),擬似体液の流速・温度を適切に制御し,加工による得られた生体吸収マグネシウム合金試験片の腐食挙動および分解速度について評価できる腐食実験装置を試作する. 平成31年度以降には,バニシング加工および熱処理による生体吸収マグネシウム合金の強度および分解速度制御手法の構築を試みる.バニシング加工に得られた試験片を試作した体内環境を模擬した装置に一定時間に浸漬し,引張試験やSEM表面観察を用いることで,腐食によりその機械強度および表面性状の変化ついて評価する.また,バニシング加工に得られた表面特性(表面粗さ,硬さ,残留応力)の変化および結晶組織の変化が生体吸収マグネシウム合金の分解速度にどのように影響を及ぼすことを検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に国際会議INCASE2019が開催するので,今年度情報収集するための旅費を節約し,研究成果を次年度の国際会議INCASE2019で発表する予定がある.
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