本研究は生体吸収マグネシウム合金を用いた高機能化した低侵襲医療デバイスの実用化を実現するため,バニシング加工によりマグネシウム合金の表層部結晶組織を制御することで,生体吸収マグネシウム合金製品の任意の部分の強度制御および分解速度の制御を実現することを目的としている. 前年度までには,加工パラメータを精密に制御可能なバニシング加工システムを構築し,細かく加工条件を変更しながら,生体吸収マグネシウム合金AZ31の試験片に対して,各加工パラメータ(バニシング力,送り速度,走査間隔)が表面特性(表面粗さ,硬さ,加工硬化層の深さ)及び結晶組織(結晶粒径,結晶方位)に与える影響を明らかにした.一方,人体の体内環境を模擬した腐食実験装置を構築し,種々の加工条件で加工した試験片に対して腐食試験を行い,バニシング加工は生体吸収マグネシウム合金の耐食性の向上に有効であることを確認した. 今年度では, バニシング加工した試験片に腐食試験及び表面観察を繰り返して行い,バニシング加工が生体吸収マグネシウム合金の耐食性を向上するメカニズムを実験的に解明した.バニシング加工より,表層部の結晶粒径が微細化になり,マグネシウム合金の表面に緻密な腐食物が生成される.その腐食物がバリアになり,表層部下の材料を腐食から守られていることを判明した.また,これまでの得られた成果の発展および実用化に向けて,複雑な自由曲面を加工できる新しいバニシング加工システムを構築し,バニシング力を両面から与えることにより,ボーンプレートのような薄板材料への適用を可能にした.
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