研究課題/領域番号 |
18K03869
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
喜成 年泰 金沢大学, 設計製造技術研究所, 教授 (90195321)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 繊維強化複合材料 / 組紐 / 熱可塑性樹脂 / 熱間プレス / 中立糸 / 機械的性質 |
研究実績の概要 |
前年度、熱可塑性樹脂フィルムの上に薄く開繊した炭素繊維を埋め込んだフィルム状の中間基材を細くスリットしたテープ(以後Cスリットヤーン)を用いて組紐構造プリフォームを作成し、熱間プレスにより、立体的な熱可塑性樹脂製品(以後組紐CFRTP)の成形に成功した。すなわち、本研究課題スタート時点では「立体的に複雑な形状をした」プリフォーム作成に主眼をおいていたため、実際にFRPを成形する手法としては、(含浸時に粘度の低い)熱硬化性樹脂を用いたVaRTM(真空含浸工法)成形法等を想定していたが、Cスリットヤーンを用いた中空パイプ状の組紐CFRTPの成功により、短時間でCFRTP成形品を得ることができるようになった。CFRTPは熱硬化性樹脂によるCFRPと比較して、成形時間が短い、補修・再加工が可能、リサイクルが容易、破壊に要するエネルギが大きい等、優れた特徴を有する一方、樹脂粘度が高いため、複雑形状をした製品として普及した例は報告されていない。 組紐CFRTPの優れた特徴を効果的に活用するため、今年度は組紐CFRTPの製造条件と機械的性質の関係に焦点を絞って研究を進めた。組紐構造プリフォームは時計回り・反時計回りに交錯する組糸と中立糸からなる薄いプリフォーム層を数層~数十層積層させて所望の厚みのプリフォームを形成するが、同じ厚さの中空パイプ状組紐CFRTPを形成する場合でも、中立糸を少なく(1層の厚みは薄くなる)層数を多く形成した成形物と、1層への中立糸をできる限り多く挿入し、層数を少なく形成した成形物とを比較した結果、層数の多いCFRTPは曲げ強度が大きく、中立糸が多いCFRTPは曲げ剛性が高い傾向を有することを見いだした。 また、曲げ試験の試験方法を改善し、適切な製造条件では、曲げ強度500MPaを超える製品や曲げ剛性50GPaを超える製品を得ることができることを実証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究課題スタート時点では「立体的に複雑な形状をした」プリフォーム作成に主眼をおいていたため、実際にFRPを成形する手法としては、(含浸時に粘度の低い)熱硬化性樹脂を用いたVaRTM(真空含浸工法)成形法等を想定していたが、Cスリットヤーンを用いた中空パイププリフォームを作成し、これを熱間プレスすることによって短時間でCFRP成形品を得ることができた。この技術は金沢大学から「複合成形体の成形システム及び製造方法(特願2019-087775)」として特許出願した。 また従来、試験の簡便性を重視して3点曲げ試験により製品の機械的性質を評価していたが、中空パイプ状のCFRPにおいては、曲げよりは圧縮破壊に近い状態の強度を評価していたため、文献値と比較して、じゅうぶんな機械的性質を示すことはできていなかった。今年度、治具等を工夫して、試験法を4点曲げ試験に変更したことにより、製造条件によっては、曲げ強度500MPaを超える製品や曲げ剛性50GPaを超える製品を得ることができた。 今年度は組紐CFRTPの製造条件と機械的性質の関係に焦点を絞って研究を進めたため、当初計画の「立体的に複雑な形状をしたプリフォーム作成」に対しては若干の「遠回り」のように見える。しかし当初の計画では、本学にVaRTM技術がないため、プリフォーム作成後は委託加工による樹脂成形を予定していた。VaRTM成形の外注は数ヶ月単位の納期を要するため、プリフォーム作製から曲げ試験のサンプル入手までが研究進捗のボトルネックになっていた。Cスリットヤーンを用いたプリフォームの作成により、学内で数日以内にプレス加工による樹脂成形ができるようになり、プリフォーム製造条件を変更して、機械的性質を得るまでの時間間隔が格段に改善した。このスピードアップは本研究課題の最終年度に向けて、大きな戦力となる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題スタート時点においては、FRPを成形する手法としては熱硬化性樹脂を用いたVaRTM成形法を想定していたため、「プリフォーム経路考案 → ブレーダーによるプリフォーム作成→ 外注 によるRTM成形 → サンプル切出し → 曲げ試験 → プリフォーム経路へのフィードバック」のルーチンを年間4~5回繰り返す予定であった。今年度の成果により、組紐CFRTPの製造条件が確立したため、上記計画の中で最も時間を要していた<外注によるRTM成形>が不要となり、プリフォーム製造方法を変更して、機械的性質を得るまでの時間間隔が格段に改善した。 加えて、本研究課題の初年度に得られた、(熱硬化性CFRPを用いた)単純な円筒状パイプと比較して約2倍の強度を有する「外殻+隔壁構造CFRP作成」の成果と、本年度の成果である「Cスリットヤーンによるプリフォーム形成+熱間プレス技術」を複合させて、「外殻+隔壁構造CFRTPを作成」すれば、当初目標としていた「同一質量の鋼構造物と比較して5倍以上の機械的強度向上」はじゅうぶんに超過達成可能である。熱硬化性樹脂によるCFRPと比較して、成形時間が短い、補修・再加工が可能、リサイクルが容易、破壊に要するエネルギが大きい等、優れた特徴を有するCFRTPにおいて当初目標が達成されることにより、種々の産業における社会実装が期待される。 新型コロナウイルス感染拡大防止を目的として、大学における研究活動が大きく制限され、とくに大学院生の研究への協力が困難な状況ではあるが、実験可能な期間が半年程度あれば、当初の目的を達成することが可能であると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Cスリットヤーンは、熱可塑性樹脂フィルムの上に薄く開繊した炭素繊維を埋め込んだフィルム状の中間基材を、さらに組紐機械で組糸として使用するために、細くスリットしたテープであり、通常の炭素繊維と比較しても格段に製造コストがかかる。このため、多くの研究費をCスリットヤーンの購入に充当する予定であったが、年度の途中で、Cスリットヤーンの無償サンプル提供を受けることができ、多くのサンプルを作成し、有益な実験データを得ることができた。 最終年度はCスリットヤーンを購入する必要がある。また、本年度使用した熱間プレス用の型は、曲げ試験をするための、内径・外径が一定で直線状の単純な中空パイプ形状であったが、「立体的に複雑な形状をしたプリフォーム」を成形するためには、より頑丈で大きな熱間プレス用の型が必要となる。以上の2点に対応するため、前年度残額と合わせて助成金を使用する計画である。
|