研究課題/領域番号 |
18K03871
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
静 弘生 静岡大学, 工学部, 助教 (80552570)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | NiTi合金 / TiNi合金 / ニッケルチタン合金 / 超弾性 / 相変態 / 応力誘起マルテンサイト変態 |
研究実績の概要 |
令和元年度は「TiNi合金の切削加工において相変態はどのように生じ,超弾性はどのように切りくず及び仕上げ面生成メカニズムに影響を及ぼすのか」について調査行った.これを調べるために,円盤状のTiNi合金を旋盤に取り付けて2次元切削を実施し,その際に切削動力計による切削力の測定と高速度カメラによる観察を同期させて測定を実施した.その結果,切削力の測定結果よりTiNi合金の切削では切削開始時と終了時に通常の金属加工では生じ得ない穏やかな切削力の増減が見られた.この結果と高速度カメラの測定結果を比較した結果,この合金の切削加工では以下の4つのモードを辿ることを明らかにした.①切削開始直後は切削負荷による応力誘起マルテンサイト変態による被削材の大きな超弾性変形が生じ,被削材は工具が食い込むように大きく変形し,工具は上滑り現象が生じる.その際粉末状の極微な切りくずの発生を伴う.その後②応力誘起マルテンサイト変態の限界応力を超えて被削材はせん断変形を伴う切りくずの発生モードに移行し,極薄い切りくずが発生し切削力は切込みの増加に伴い増加する.その後③安定的な切削力,切りくずの発生に移行する.切削終了時は④切削力は穏やかに減少し,①の現象を伴って切りくずは発生し続ける.さらに,TiNi合金の切削加工では切削時の負荷による応力誘起マルテンサイト変態と加工後の逆変態が生じ,加工後の仕上げ面に大きな形状回復が生じることを明らかにした.さらに,切削速度を変更して切削実験を実施した結果,切削速度10~50m/minの低速条件では仕上げ面の形状回復が生じるが,切削速度を増加させると100m/minではほとんど形状回復が見られず,高速切削において加工寸法精度の向上が見られる可能性を見出した.得られた知見を国内学会1件,国際会議1件の発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度に当初研究目的の1つとして設定していた相変態に伴う超弾性が切りくず生成メカニズム及び仕上げ面に及ぼす関係について非常に重要な知見を得ることが出来た.これにより,一昨年度研究の進捗が当初の予定より遅れていたことを挽回できた.一方,同じ相変態の現象に起因する形状記憶特性と切削特性の関係性に関しては有意義な結果が得られておらず,この点に関しては次年度に取り組む予定である.一方研究結果の発表に関しては,国内学会1件,国際会議1件の発表を行ったが,学術誌への論文投稿がまだ行えていないことから次年度これを行う.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針に関しては,①超弾性の切削現象への影響に関するより詳細な検討と②形状記憶特性と切削現象の関係の調査に関する2点について研究を実施する.①に関しては,これまで実施してきた切削実験や成分解析等に基づく検討に加え,FEM解析を実施しメカニズムの解明を目指す.さらに,切削実験に関しては,これまで,切削現象を単純化した2次元切削が必要であるという考えより旋盤を用いた2次元切削を実施してきた.しかしながら,この方法では正確な2次元切削が困難であるという問題が生じるため,新たに2次元切削加工機を開発して実験に用いる予定である.②に関しては,NiTi合金の形状記憶特性が切りくず生成メカニズムに及ぼす影響を調査する.切削加工では切削速度および切り取り厚さを変化させることにより切削点近傍温度の制御が出来る.このことから,種々の切削条件においてNiTi合金の切削加工における切削温度を工具-被削材熱電対法により求める.その後,得られた切りくずを冷却-加熱して形状記憶の有無を調査し,切削温度が形状記憶処理温度を超える場合と超えない場合で切削現象がどのように変化するか検討を行う. また得られた成果を論文にまとめ発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度はNiTi合金の相変態に基づく超弾性や形状記憶特性が切削加工に及ぼす影響を調査する.この実験には正確な2次元切削を行う必要あり,このための実験装置を製作する必要がある.このことから,本年は全ての資金を使用せず次年度の2次元切削加工機製作費として確保した.
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