研究課題/領域番号 |
18K03878
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
近藤 英二 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (10183352)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | びびり振動抑制 / 小径エンドミル / コンプライアンス / ハイブリッド主軸 / 制御磁気軸受 |
研究実績の概要 |
本研究は、主軸の支持剛性は玉軸受で確保し、磁気軸受によって主軸下端の運動を制御できるハイブリッド主軸を用い、電磁力により主軸・工具系の振動を制御し、小径エンドミル工具先端での動的コンプライアンスを改善することでびびり振動を抑制することを目的とし、本年度は提案したハイブリッド主軸の実験機を製作し、基本的機能の評価を行った。実験機では主軸として首下の長さ60mm、直径20mmのツールホルダを用い、ツールホルダの下端近くに電磁力を受けるケイ素鋼板円筒部を取付けた。またマシニングセンタ主軸ヘッドの下端に冶具を介して電磁石を取付け、ツールホルダ下端のケイ素鋼板円筒部と組み合わせ、制御磁気軸受とした。また工具から遠い方のころがり軸受は、実験に用いたマシニングセンタ主軸の転がり軸受をそのまま用いる構造とした。ツールホルダを仮想的な主軸と見做した時のケイ素鋼板円筒部のばね定数は5MN/m、1次の固有振動数は約600Hzであった。電磁力は25N/Aであり、±9A(バイアス電流3.8A)の電流に対し、±50μmの範囲でほぼ直線関係が得られた。また長さ65mm、直径6mmのエンドミルをツールホルダに取付けて振動試験を行い、ケイ素鋼板円筒部とエンドミル下端に集中質量がある2自由度系になっていることが示された。ここで振動系は同じ方向に質量が振動するモデルではなく、2重振り子のモデルを用いることで、実際の主軸・エンドミルの振動系の振動特性の理論値が実験値により近くなることが明らかになった。また得られた振動系のモデルを用いて極配置法により状態フィードバック係数を求め、状態フィードバック制御により、工具先端のコンプライアンスのピーク値が低下することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度の目標は「エンドミル工具のコンプライアンス制御システムの設計・試作と評価」することであった。研究実績で述べたように、製作したハイブリッド主軸の実験機は、当初計画していた基本的な仕様をほぼ満足していることを確認した。また実験機は主軸回転速度12000rpmで高速回転させることができ、エンドミル加工も可能なこと、12000rpmで高速回転させても電磁力によりエンドミルを高速で動かすことができることを確認した。これら成果は、初号機での当初の仕様を上回る結果であり、今後の研究の進展にとって大きな助けになると考えられる。エンドミルの振動制御にとって重要な振動系のモデルについても、当初は2自由度系で同じ方向に質量が振動するモデルを考えていたが、詳細な振動実験を繰り返した結果、振動系のモデルは2重振り子を用いる必要があることが明らかになった。これも2019年度に実施を予定している状態フィードバック制御を用いた場合のエンドミル下端でのコンプライアンスの測定において、良好な結果を得る上で重要か知見になると考えられる。また状態フィードバック制御において、当初エンドミル先端の振動の測定が必要であり、コンプライアンスの測定は主軸を回転させないでレーザー変位計で行う必要があると考えていた。しかし、詳細な振動実験を行うことで、エンドミルの上端に近い位置に取付けたアルミリングの振動でもエンドミル先端の振動とほぼ同じ測定結果が得られることが分かった。レーザー変位計による振動測定ではやや無駄時間があり、制御特性を悪くするではないかと懸念されたが、エンドミル上端のアルミリングの振動変位を渦電流式非接触変位センサで測定できるため、無駄時間の影響を排除することが可能になった。以上述べたように、今後予想される問題点のいくつかを解決することができ、予定よりも研究は進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、予定通り「エンドミルの振動制御すステムの機能の評価」を行う。既に制御系の主要な部分の製作は終えており、状態フィードバック制御を行う部分は、デジタル化による制御系への影響を排除するため、アナログ回路で製作する予定である。アナログ回路の実装は容易でないが、オペアンプを用いることで、できるだけ簡単に制御回路を製作し、コンプライアンスの評価試験を行う。当初の2019年度の実施計画は、以上で述べたことのみであったが、2020年度が最終年度であり、十分な成果を得るために、2018年度に得られた研究成果を踏まえ、以下のことを追加で行う予定である。(1)エンドミルの振動変位をエンドミル上端に取付けたアルミリングの位置で測定できるようになったため、主軸を高速回転させた状態で電磁力によるスイープ加振を行い、主軸系の振動特性を測定し、静止状態で測定される主軸系の振動特性との違いについて検討し、主軸振動系のモデルの修正を行う。また切削中でもエンドミルの振動変位の測定できるので、最終年度に実施を予定していた切削実験を行い、エンドミル下端でのコンプライアンスの制御によるびびり振動の抑制の効果について検証する。(2)本研究の最終年度は、オブザーバーを使ってエンドミル下端の振動変位を推定してコンプライアンスを制御し、切削実験により有効性を検証する予定である。そこで、2019年度はその準備として、アナログ回路で作成する状態フィードバックの制御回路をソフトウェアでも製作し、アナログ回路で製作した制御系との特性の違いについて検討する。
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