研究課題/領域番号 |
18K03884
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
後藤 昭弘 静岡理工科大学, 理工学部, 教授 (00711558)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電解 / 研削 / 複合加工 / 超硬合金 |
研究実績の概要 |
本研究では、超硬合金(炭化タングステンWCとコバルトCoを主成分とした硬質の焼結材料)の高速高精度な加工方法として、電解加工を併用した研削加工(以下、電解複合研削と呼ぶ)に注目している。研削加工に電解加工の作用を複合させることで、加工効率を飛躍的に高めることができるが、一方で電解作用による超硬合金材料の品質を劣化させるという問題があることがわかってきている。本研究では、電解加工によりCoを適切な速度で溶出させ、研削加工の効率を上げると同時に、過多なCoの溶出を防止し、超硬合金の品質を劣化させず、高品位高効率に加工する技術の確立を目指している。 平成30年度は、本方法により、超硬合金の高能率加工が可能であることの確認と、電解作用の加工面への影響の調査を行った。 研削抵抗を測定するための簡易的な研削抵抗測定装置を製作し、電解作用のありなしでの研削抵抗への影響について調査した。その結果、概略ではあるが、研削抵抗がおよそ4分の1程度以下とできることが分かった。 また、電解作用による加工面の反応について調べ、超硬合金の成分であるCoが先に溶出し、その後にWCの酸化現象が始まることが分かった。すなわち、研削加工との複合加工では、Coの溶出直後に効率よく超硬合金のWCを除去加工が可能であることがわかり、高能率加工できることを示した。 さらに、複合加工を行った加工面を分析し、Coの溶出痕が残っていることを明らかにした。このことは加工速度をさらに上げることができるということを示している一方で、最終仕上げ加工においては、Coの溶出痕を表面に作らないように電解作用を停止するという加工方法上の指針を与えるものである。加工屑を分析したところ、成分は、WCとCであり、目指した通り、Coを溶出させ、WCが参加する前の状態で効率よく除去加工がおこなわれていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複合加工に利用する電解現象について調査し、加工部位表面に与える影響を調べたところ、期待する成果を得ることができた。電解により超硬合金に起こりうる反応には、CoのCo2+としての溶出、Coの酸化(CoOへの変化)、WCの酸化(WO3への変化)がある。Coの溶出は,超硬合金のバインダを除去して脆くし,切削の効率を上げる効果がある。Coの酸化は、超硬合金の表面に絶縁膜を作り、電解作用を妨げると考えられる。WCの酸化は硬質のWCを脆弱な材料に変える反応であり絶縁物であるため電解作用を妨げると考えられる。本方法では電解の電流をCoの溶出に使い、脆弱化した材料を効率よく削り落としたいので、できるだけCoの溶出反応のみを起こすことが望ましい。平成30年度の研究により、電解作用により、超硬合金表面には3種類の反応すべてが起きるが、反応には時間差があり、最初にCoの溶出が起き、表面のCoが溶出した後で、酸化現象が起きることが確認できた。電解の電流値を上げて反応を速めたときにも、反応の時間が短出されるものの反応の順番は変わらないことも確認できた。この結果は、実際に複合加工を行ったときの加工屑の分析からも裏付けられており、加工屑成分はWCとCのみしか検出できなかった。WCが検出されたということは、Coが溶出して脆弱化した超硬合金を効率よく除去できていることを示しており、Cが検出されたことは、工具として使用している砥粒が検出されたということと考えている。 また、簡易的な方法ではあるが、計画前倒しで、研削抵抗を測定することができ、精度のよくない方法ではあるものの、大幅に研削抵抗を低減できることを示すことができた。 以上のように、予定前倒しで本技術の有効性を示すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画前倒しで平成30年度に研削抵抗の低減効果を確認できたが、令和1年度は、電解作用の条件と研削の条件との関係について詳しく調査する。電解の電圧を上げて電解反応の速度を高めることで、どこまでの加工速度が可能かについて調査する。電圧を上げることで臨まない放電の発生も予想されるため、工具である砥石の構造についても検討を行う。 また、電解の電圧を上げることにより、加工部位以外への影響も大きくなるため、電解電源の条件の観点と、電解液の成分の観点での検討を進める。さらに加工電極近傍に保護用の電極(工作物に対してプラスの極性とする)を設置する方法も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
中古の研削盤を購入して実験に使用する計画であったが、希望する機械を購入することができなかったため、平成30年度は、既設のフライス盤を使用し、電直砥石により基礎実験を行った。中古の研削盤を購入しなかったため支出は減ったが、電着砥石の費用が予定していたメタルボンド砥石より多くかかった。令和1年度もちゅうこの研削盤を探すが、適した機種が見つからなかった場合には、フライス盤で継続して研究を進めることとする。その場合には、工具の構成を再検討する必要があるので、研削盤に充てる予定だった予算を工具費用に増額する。
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