研究課題/領域番号 |
18K03901
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研究機関 | 津山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小林 敏郎 津山工業高等専門学校, 総合理工学科, 教授 (70563865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フレキシブル / 有機半導体 / 有機EL / 剥離 / 密着力 / 座屈 |
研究実績の概要 |
本研究の最終的な用途は、ウェアラブルコンピュータ、フレキシブルテレビ等多岐にわたるもので、イノベーションにより生活様式を変革させる可能性を有する。 本研究では、産業界で問題となっているフレキシブル有機半導体素子の剥離損傷(バックリング)防止技術および評価・設計手法の確立を目指し、フレキシブル基板上の有機半導体素子が圧縮歪を受ける時の、(1)剥離損傷(バックリング)の評価手法の確立、(2) 剥離損傷に及ぼす有機材料、密着力の影響の検討ならびに防止手法の提案、(3)力学モデル解析による圧縮曲げ変形時の剥離メカニズムの解明と力学設計手法の構築を行う。 (1)については、計画どおり、実験装置、条件、現象把握が出来たため、剥離損傷(バックリング)の評価手法はほぼ確立できたと考えられる。さらに、上記(1)および(3)の一部については日本実験力学会の英文誌(2019年8月)に掲載済である。(2)につては、Ag電極層の剥離強度は、下層の材料に依存し、特定の中間層を挿入することによって剥離強度が大きく改善される場合と、中間層を挿入することによって剥離強度が逆に低下する場合があることがわかった。具体的には、Ag電極層の剥離強度は、下層がAlq3の場合は5[N]以上で、CBPでは1[N]と低強度であるが、中間層としてAg電極層と下層の間に中間層(LiF、Ca、Mg、Al)を挿入した場合、下層がCBPの場合は、剥離強度は3~5[N]に大きく改善されることを見出した。しかし、下層がAlq3の場合は、中間層を挿入することによって剥離強度は逆に低下することがわかった。これらの研究状況は国際会議で2件をポスター発表(2019年10月)済である。また、今後は、メカニズムの解析や考察解析を含めて国際会議での論文発表の予定であるが、2020年度はコロナウィルスの影響で、すでに国際会議の開催中止が決定している学会もあり、成果の発表に関しては若干不透明な部分が残っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、屈曲性試験機を設計・試作し、厚さ0.1mmのPET基板上に製膜した電極用のAlおよびAg合金薄膜を用いて基本的な屈曲試験を行い、座屈剥離の生じる条件を把握した。その結果、材料力学的な簡易解析によって、座屈剥離数におよぼす皮膜の厚さ、皮膜材質の影響が理論的に説明できる見通しを得た。また、圧縮曲げひずみの増大とともに座屈剥離数が増加しピーク値を示した後、減少し、逆に座屈剥離の間隔は増大する現象を実験により見出した。以上より、「(1)剥離損傷(バックリング)の評価手法の確立」については、計画どおり、実験装置、条件、現象把握が出来たため、剥離損傷(バックリング)の評価手法はほぼ確立できたと考えられる。 「(2) 剥離損傷に及ぼす有機材料、密着力の影響の検討ならびに防止手法の提案」については、密着性測定装置を設計・製作し、以下のように新しい知見が得られており、更に詳細解析を継続中である。 Ag電極層の剥離強度は、下層がAlq3の場合は5[N]以上であるが、CBPでは1[N]と低強度である。また、中間層として、 Ag電極層と下層の間に中間層(LiF、Ca、Mg、Al)を挿入した場合、下層がCBPの場合は、剥離強度は3~5[N]に大きく改善されたが、下層がAlq3の場合は、中間層を挿入することによって剥離強度は逆に低下することがわかった。さらに、 Ag電極層の厚さの影響は顕著ではない. 「(3)力学モデル解析による圧縮曲げ変形時の剥離メカニズムの解明と力学設計手法の構築」については、材料力学的な簡易解析によってメカニズムが理論的に説明できる見通しが得られており、今後は,2次元モデルと具体的な材料の組み合わせを用いて詳細を検討する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
全ての実施項目について、概ね実験データは取得でき、仮説のとおり剥離損傷(バックリング)が低減できる条件が把握できつつある。今後はさらに、座屈剥離に及ぼす界面インサート材、金属層厚さ、金属層材質の影響を定量化し、密着力との、各々の試験法の力学的な相関を整理する。さらに、取得した実験データと一連の解析結果の整合性を考察し、力学設計手法を構築するための基礎固めを行う。以上を総合して、主として、界面インサート材、金属層厚さ、金属層材質の適正化による剥離の防止手法の提案を行う。さらに、力学モデル解析による圧縮曲げ変形時の剥離メカニズムの解明と力学設計手法の構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの実施形態は、試験片数を計画より減らして、大まかな傾向を把握して、仮説に合致する部分と差異のある部分を浮き彫りにし、中間材の効果などを見出してきた。そのため、材料費、試験片の作製費用は計画よりも抑えられているが、今後は、学術的にも工学的のにも、重要な浮彫にされた部分に特化して、実験点数の追加、同類他材料の効果確認、およびメカニズムの究明などに注力するため、次年度使用額を用いて普遍的な成果の導出を行う計画である。
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