海水中などの腐食環境下で使用される材料としてスーパー二相ステンレス鋼があるが,前年度の実施内容から,この材料は静的な環境下での耐食性に優れるものの,摩耗が加わった腐食摩耗環境下ではオーステナイト鋳鉄よりも耐摩耗性に劣ることが明らかとなった.そのメカニズムを明らかにするために,摩耗痕における分極測定などを実施した. 摩耗痕における分極測定を行うため,人工海水中における腐食摩耗試験を行い,生成された摩耗痕以外の箇所をエナメルでコーティングした.検討した材料は,スーパー二相ステンレス鋼(CE3MN),高クロム鋳鉄(27Cr),オーステナイト鋳鉄(D3)の三種類である.得られた摩耗痕における分極データを試験前の各表面の分極データと比較した.また,腐食摩耗試験における摩擦,摩耗,自然電位の変化や表面観察も実施した. 摩耗痕における分極データから,スーパー二相ステンレス鋼と高クロム鋳鉄では摩耗痕のアノード側の分極が試験前のものと比べて正の方向にシフトしており,耐食性が低下していることが示唆された.また,摩擦中の自然電位の変化について,①オーステナイト鋳鉄では一度マイナス方向に変化した後プラス方向に回復すること,②オーステナイト鋳鉄の摩耗量がその他の材料よりも小さいこと,が前年度同様に確認された.また,摩擦係数についてもオーステナイト鋳鉄の値は0.08程度と,その他の材料(0.18~0.21程度)と比べて小さかった.表面のEDS分析を行った所,オーステナイト鋳鉄では表面の炭素が増加しており,炭素リッチなトライボ膜生成が示唆された.一方,スーパー二相ステンレス鋼ではNiの増加が確認された.これらのトライボ膜が腐食摩耗における機械的な摩耗と化学的・電気化学的な摩耗に影響を及ぼしていると考えられ,これらを考慮したモデルの必要性が明らかとなった.
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