研究課題/領域番号 |
18K03903
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 晃生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40313035)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 準受動歩行 / 二足歩行 / 熱変形 / 自励振動 / バイメタル / エナジーハーベスト |
研究実績の概要 |
本研究は,バイメタルシートの自励振動を用いて高温水平面上を歩行する熱歩行機構に関して,その歩容や歩行条件を改善することを目的としている.本年度は主に以下に述べる成果を得た. (1)従来の熱歩行機構は,バイメタル自動振動によって機体を左右にロールさせつつ足を前後に振り出して歩行していた.しかし,その歩容は横揺れが大きい一方で歩幅が小さく,一般的な二足歩行機構とは大きく異なっていた.そこで前年度,バイメタル振動を前後方向のピッチ運動に用いることを提案したが,提案機構は膝関節を持たないことから,歩行のためには地面に置き石をもうける必要があった.本年度はこの解決のため斜め方向に機体を振動させることを検討した.新たに提案した機構では,従来,円筒面としてきた足底形状を,ラグビーボールの部分形状とした.これにより斜め方向へと機体を傾斜させ,従来よりも広い歩幅での歩行を実現した.実現された歩幅は脚長の22%であり,10%以下であった従来のロール振動型歩行機構よりも大幅な改善が見られた.一方,従来の円筒面足裏形状と比較して,ラグビーボール形状では機体の安定性を保つことが難しく,従来よりも転倒しやすいことも明らかとなった.今後は,足裏形状による特性の違いを鑑みて,最適な足裏形状の検討を進める必要がある. (2)熱歩行機構の駆動力源となるバイメタルシートは,薄いシートほど自励振動を励振しやすいと考えられるが,一般に入手可能なバイメタルシートの厚みは限られる.薄いバイメタルシートを研究室レベルで容易に実現するため,市販のバイメタルシートを圧延ローラで圧延することを試みた.圧延したバイメタルシートには反りが生じるが,これを曲面形状にあわせることで自励振動を励振可能であることが確認できた.また,試作できた0.06mm厚までの範囲においては,薄いほど自励振動が素早く励振されることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画における最大の課題は,新しい歩行形態の探索である.すなわち,従来機構では機体をロール振動させながら歩く,という歩容であったが,そこから得られる歩幅は小さく,また,大きく横揺れすることから,千鳥足のような歩容にも感じられた.研究計画では,ロール方向のみならず前後のピッチ方向への傾斜を活用することを挙げていたが,前年度に実施した前後方向への傾斜で得られた知見をもとに,今年度新たに斜めへの傾斜にも取り組んだ.結果として歩幅を大きく改善することに成功し,また,それに伴う技術的な課題も明らかとなった.当初の計画では斜め方向への傾斜というのは具体的には想定していなかったが,前年度の研究で得られた知見に基づく展開であることから,順調な研究の進展であると考える. 一方,自励振動を発生させるために用いているバイメタルシートについて,他の熱変形素子の活用なども念頭におきつつ,自励振動に必要な温度の低減をはかる,ということを研究計画に挙げた.他の熱変形素子としては形状記憶合金シートの活用について検討しているが十分な成果は得られていない.一方で,バイメタルを圧延ローラで圧延することで,バイメタルの自励振動の励振が容易になることが確認できたことから,今後の歩行動作温度の低減につながるものと期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては,ここまで得られた知見をもとに,安定かつストライドの大きな歩容を実現する機構の検討を,特に足裏形状に着目しながら,より進展させていきたい.また,バイメタルの薄型化に関する知見を活かし,実際に歩行機構をより低温度で歩行させることを試みたい. 一方,現状の機構は,あらかじめ設定した機構パラメータにより歩容が定まってしまっていることから,簡易なアクチュエータを搭載して機構パラメータを変化させることで,能動的に歩行を制御することについて,検討を進めていきたい.具体的には簡便なアクチュエータにより重心位置を変化させることによって,前進/後退や歩幅などを制御する方法を検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
ここまでに得られている知見に基づく新しいプロトタイプの設計検討を進めている.次年度前半に試作を行う予定であり,その試作費用として用いる.
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