本課題ではDLC膜の力学的特性や物性の分布を調査し,より高疲労強度を有するDLC膜形成のための指針を得ることを目的としている.そのため,これまでに開発した繰返し押付け試験機(1号機)に加えて,1号機の問題点を改善するため新たに設計,製作した繰返し押付け試験機(2号機),ボルト締めランジュバン型超音波振動子を用いたギガサイクル表面疲労強度評価装置を新たに開発し,超寿命領域での皮膜の挙動評価も行った. 製作した繰返し押付け試験機(2号機)では1号機にあった問題は認められず,球圧子を用いた押付け試験でできた圧痕の形状は1号機の圧痕に比べて円形に非常に近く安定していた.またDLC膜上にできた圧痕の直径は,算出したヘルツ接触幅より数十マイクロメートル程度大きかった. 一方,同一のDLC膜表面の面内における異なる測定位置でラマン分光分析を行うことで膜構造の違いを確認した.その結果,基板バイアス電圧が低いほど,測定場所によってラマンパラメータの差が大きいことがわかった.また,DLC膜形成後の基板の皮膜形成面裏面に対して行ったロックウェル硬さ試験の結果から,測定位置によって基板の硬さにも差が生じていることが判明した.このことから,皮膜形成時の真空チャンバ内の温度が基板硬度に影響し,基板硬さにばらつきを生じさせていると考えられた. 繰返し押付け試験後の圧痕において異なる複数の測定位置でのラマン分光分析の結果得られるラマンスペクトルのDピーク位置とGピーク位置の強度比ID/IG比と,Gピーク位置の変化の関係をグラフ化した.その結果,一見DLC膜が損傷していると判断される箇所でも実際には健全であると評価可能と判断される領域があることを見出した.この領域に属するDLC膜は,一見損傷していてもまだ機能を発現できる状態であることから,この領域に属する皮膜は長寿命であると考えられた.
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