研究課題/領域番号 |
18K03907
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (10402984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 樹脂歯車 / 人工知能 / 損傷検知 / かみ合い振動 |
研究実績の概要 |
19世紀に機械堀りの技術が確立されて以降,石油はエネルギー源の主力となって産業の発展に,また経済の成長戦略に大きな影響を与えてきた.21世紀に入り,こうした天然の資源に変わり,世界の産業や経済を牽引する広義な意味での新しい資源は「情報」であるとされる.歯車においても,それを取り巻く環境に目を向けると「Industry4.0」や「IoT」といった言葉が創出され,「情報資源」を掘り当てて回収・加工し,それを利用する新しい方法の創造が求められている. 本研究では金属歯車と比較して健全性評価の研究が進んでいない樹脂歯車を対象に,かみ合い振動と歯元のき裂長さの情報を取得するシステムを開発し,様々な運転条件で歯車の運転試験を行いデータ収集を行った.そして振動データをフーリエ変換し,軸の回転周波数毎にゲインの最大値を抽出した後,大きさに合わせてグレースケールに変換し,つづら折りに配置することで画像化し,画像認識で利用される深層ニューラルネットワークを構成し,画像化されたかみ合い振動を解析し,歯元き裂の有無を検知するためのシステムを開発してきた.今年度は,開発したき裂検知システムが,学習したデータの運転条件とは異なるデータからき裂の有無を判定させた場合のシステムのロバスト性を検証した.また,画像化する振動データの周波数領域をかみ合い振動数の何番目の高次成分までを含めるか等,学習で必要となるデータサイズと検知性能の関係についても検証した.また,時間周波数解析であるウェーブレット変換を用いて振動データを画像化する方法について提案し,その変換で用いるパラメータ等について検証した.さらに低周波数帯域のウェーブレット係数を解析することでき裂発生前に変化が現れることを発見した.また,時系列データの時間同期平均を取ることにより,き裂の発生によって振動データに生じていた振幅変調が収まることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度には,当初の予定では,「周波数解析結果のグレースケール表現による画像化」と「時系列データのグラフ理論を利用した各歯間の相関関係の画像化」を行うことを目標としていた.一つ目の課題については,既に前年度に完了し,さらに画像認識用のディープニューラルネットワークを用いて学習,そしてき裂検知を行うシステムを完成させていたことから,学習・そしてき裂検知に必要となるデータの適切な情報量について検証した.その結果,軸の回転周波数毎に2次のかみ合い周波数までのデータを画像化すれば十分な検知性能を発揮することがわかった.そして,様々な運転条件でかみ合い振動データを収集し,それらのデータに対する提案したシステムのロバスト性について調査することができた.また,二つ目の課題については,時間同期平均を行うことで一つの歯が噛み合うタイミングで時系列データを切り出すことに成功し,前年度に提案していた歯車形状をネットワーク表示する方法を用いて画像化することが可能となった.さらに,時間周波数解析の手法であるウェーブレット変換によってかみ合い振動データを画像化し,周波数解析結果の画像データよりも検知性能を向上させることが可能となった.それに加えて,低周波数帯域のウェーブレット係数の総和を計算し,それをモニタリングしていると,き裂が発生する前にそのエネルギー量が増加に転じることがわかり,き裂以外の摩耗や変形による損傷形態の検知が行える可能性を示唆する結果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に開発予定であった画像認識用のディープニューラルネットワークを用いたき裂検知システムは既に完成し,運転試験データの学習とき裂検知を行うことが可能となっている.そして,ポリアセタール歯車の運転試験において,運転条件を変更したデータを収集し,システムのロバスト性を検証してきた.今後は,引き続き,樹脂歯車の試験材料が変更された場合についての検知システムのロバスト性についての検証を行っていく.また,低周波数帯域のウェーブレットエネルギー量が歯車の運転状況に応じて感度良く変化していることから,今後は,このデータの有用性について検証を行なっていく.現在,き裂以外のどのような損傷に対してウェーブレットエネルギーが反応しているかについて確認できていない.そこで,運転試験中にこの量が変化してきたら運転を止め,歯車の形状計測・質量計測を行い,摩耗や熱による歯の倒れ等,損傷形態の同定を行い,振動データに対するラベル付けを行なっていく.そして,開発した検知システムに学習する損傷モードを追加することで,き裂前の別の損傷が検知可能であるかどうか検証する.また,低周波数帯域のウェーブレット変換の結果が,き裂が発生すると歯車の一回転あたりに振幅変調を含んだ応答となっていることから,このデータを用いてき裂発生位置の同定が可能であるかどうか検証を行なっていく.
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