2020年度の研究においては,PVA凍結解凍ゲルおよびキャストドライゲルの構造を単一層内で複合化させたコンポジット型ハイブリッドゲルを対象に,摩擦・摩耗低減のためのゲル作製時の乾燥温湿度条件の最適化を検討した.その結果,高温乾燥処理時間を24時間設定すると弾性率は増加するものの摩擦・摩耗特性は著しく劣化した.一方,高温乾燥時間を12時間以下に設定すると従来のPVAハイドロゲルよりも高弾性率かつ摩擦・摩耗をより低減できることが明らかになった.これにより,ゲル作製時の乾燥温湿度制御により,トライボロジー特性の改善のみでなく,高弾性率化も可能であることが示された. また,PVAキャストドライゲルおよびコンポジット型ハイブリッドゲルの表面に,多孔質体からの転写によって微小な凹凸を付与したところ,水潤滑下では摩擦開始後初期の摩擦係数が摩擦係数が顕著に低下したが,摩擦距離の増大により摩耗が進行しその効果は消失した.しかし,生体の関節面での摩擦運動を想定し,ヒアルロン酸水溶液を潤滑液としても用いた場合には,定常摩擦域においても摩擦係数の低減効果が持続し,水潤滑時と比較して50%程度摩擦係数が低下した.さらに摩耗も僅少であった.これは,凹凸部にトラップられた高粘度溶液が潤滑作用をもたらしていると考えられ,生体の関節液のような高粘度溶液での潤滑下ではPVAハイドロゲル表面への微細な凹凸の付与はトライボロジー特性の向上に有用であることが示された.
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