研究課題/領域番号 |
18K03913
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
竹内 彰敏 高知工科大学, システム工学群, 教授 (30206940)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 撥水処理 / 気泡 / ディンプル / 摩擦低減 / スラスト軸受 / 超音波法 / 渦電流法 |
研究実績の概要 |
本軸受では,親水性のスラスト軸受面の一定領域に,気泡が付着し易い撥水性の浅い微小穴を多数設け,それらの穴の内面に強固に保持させた気泡により潤滑剤をスリップさせる領域と,スリップが発生し難い平坦な親水性の棚部を滑り方向に交互に配置し,両領域でのせん断流量差を補うために発生する圧力により荷重を支持する構造を有している.本軸受機能の実現に向けて,本年度(平成30年度)は,最も基礎的な事項である凹状テクスチャ面穴部の性状とせん断場での気泡保持の可能性について検討した結果,以下の内容が明らかになった. 1)鏡面の親水性ガラス面の一部に薄い撥水性膜をコーティングした試験片を,微小気泡(φ10~20μm)を含有するグリセリン水溶液中に浸漬・振動後,気泡の無い精製水中で振動させた場合には,親水部に付着する気泡はほとんど無く,気泡は撥水領域にのみ付着する. 2)上記実験をφ100μm・深さ10μmの撥水穴(サンドブラストで作成した粗い凹み内部だけを撥水処理)を持ち,それを取り囲む棚部が親水性のガラス試験片で実施した場合,約φ15μmの気泡が200μmピッチで設けた全ての凹部に形成・保持される.そしてそれらの気泡径は,精製水中で20分以上にわたって変化せず安定している. 3)親水性の相手面との膜厚を10μmとし,30mm/Sの下で滑らした場合でも,撥水凹部の微小気泡は凹部に強く固着し,穴部から排出されたり,成長して広領域での潤滑膜破断を発生させることはない.粗い撥水性凹部の配設により,希望の場所に気泡を安定保持させることが可能になる. また,上記気泡の影響の定量把握のために,潤滑膜の厚さと気泡含有率の双方に影響される超音法での観測結果と,気泡の有無によらず潤滑膜厚さだけを測定できる渦電流法を組み合わせた新しい観測法を本軸受に試験的に適用し,膜厚と気泡含有率の独立観測の可能性を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,初年度の目標である「凹状テクスチャ面穴部の性状とせん断場での気泡保持の可能性」の確認,ならびに潤滑状態に対する気泡の影響の定量把握にとって不可欠な「超音波法と渦流法を併用した膜厚と気泡含有率の独立同時観測の可能性」を明らかにすることができた. 研究では、これら主要項目に加え,気泡を保持させた粗さ面領域と平坦な親水域を交互に配置した軸受構造の可能性についても予備的に調査している.潤滑面側のすべり方向の前半分に気泡との親和性が高く気泡を保持し易い粗い撥水面を,後ろ半分には気泡との親和性が低い親水面を配置したガラス試験片を用い,10μmの間隔を維持して相手側の鏡面親水性ガラス面を15mm/sで滑らせた場合,親水2 面間にあった気泡は,滑りとともに下流側出口へと排出されるが,撥水粗さ面の気泡は,滑り後もほぼ滑り前と同じ状態で強固に保持され,下流の親水域へと流れ込むことは無かった.また,その時の摩擦係数は,2 面間への気泡の介在により減少し,この傾向は,高いすべり速度の場合ほど顕著に現れる. ただしこれらは,本研究の主目的である微小気泡での結果ではなく,両摺動面を繋ぐφ200μ程度の大型気泡での結果であるが,この状態でも,撥水粗さ面に存在する気泡が摺動により移動しないことは,気泡にせん断流量の調整機能を持たせられる可能性を示唆している. 以上のように,平成30年度には,申請時の初年度目標をほぼ達成するとともに,本潤滑面構造での軸受特性の改善の可能性,さらには,両摺動面に繋がり流路を遮る気泡にせん断流量の調整機能を持たせられること等,次年度に繋がる成果も得られており,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要に示したように,平成30年度には,気泡保持に対する凹状撥水テクスチャ面の有効性と,超音波・渦流併用型の膜厚・気泡含有率同時観測法の可能性を明らかにしたが,定量的な評価には至っていない.今後は,下記の項目について定量的な検討を重ねる必要がある. 1)せん断場で強固に気泡を保持できる凹状テクスチャ面の穴部形状と性状::凹部内面(底面を含む)を粗い撥水面にすることで気泡の保持能力が高まることは,既に明らかになっているので,ここでは,凹部の形状(直径や深さ)が保持能力に及ぼす影響を,膜厚やせん断速度を変えながら調査し,各条件での最適値を明らかにする必要がある.また,凹部内面の撥水性の強弱を,撥水剤の種類や表面粗さを変更して調べ,凹部に付けた造成剤からなる種気泡の,せん断に伴う成長や潤滑膜中への排出とその防止に有効な条件を求めなければならない. 2)撥水凹状テクスチャ域と平坦な親水域の交互配置型軸受での摩擦特性改善と圧力測定::撥水凹部内に留まる気泡上で潤滑剤がスリップする領域と,スリップし難い平坦な親水性の領域との間でのせん断流量の不連続性により発生する圧力により荷重を支持する本軸受の潤滑機構を検証するために,極微小な圧力計により軸受の発生圧力やその分布を明らかにするとともに,負荷容量や摩擦に及ぼす,撥水穴の径や深さ,凹部内面の撥水性の強さ,凹状テクスチャ領域と親水棚部の面積割合の影響について検討する. 3)超音法と渦流探傷法を併用した潤滑診断技術による気泡の保持状況や潤滑膜厚測定::上記の基礎実験は,透光性のガラス試験片を用いて行うが,実際の摺動面の多くは非透光性材料(例えば金属や樹脂)からなる.そこで,初年度の成果である超音波・渦流複合探触子を用いて,気泡の保持や成長等の挙動と膜厚の関係を求め,本軸受の好ましい作動条件や軸受特性の改善理由を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
1)次年度使用額が生じた理由: 初年度においては,本軸受の可能性の確認が主であり,また,そこで得られた結果を基に,平行平板型摺動試験機,超音波気泡挙動観測装置ならびに同ソフトを製作する計画であった.しかし,研究実績の概要にも示したように,現有の超音波探傷システムと渦流探傷システムを用いた個別の実験により,それらを併用した総合的な潤滑診断の重要性が明確になった.このことから,次年度計画であった超音波・渦流複合探触子とその同時測定ユニットの開発と,それらシステムに合わせた平行平板型摺動試験機への変更を行う必要があり,装置類に関しては次年度製作(計画は平成30年度)としたために,次年度使用額が発生した.ただし,研究計画(期待される成果)そのものには,上記変更の影響は無かった. 2)次年度使用額と当該年度以降の助成金を合わせた使用計画: 次年度使用分については,上記の装置製作費の一部として充てる.また,当該年度以降の助成金の使途については,上記装置の他に,申請内容に示した,撥水剤,精製水や試験片,マイクロブラスト加工,微小気泡発生用の造影剤,国内外の学会参加費・旅費への充当を計画しているが,多くは,新しい潤滑診断システムと,それを搭載する平行平板型摺動試験機に充てられる.
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