研究課題/領域番号 |
18K03916
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
田中 豊 法政大学, デザイン工学部, 教授 (70179795)
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研究分担者 |
坂間 清子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域 知能システム研究部門, 特別研究員 (70773539)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気泡 / 作動油 / 体積弾性係数 / 油圧システム |
研究実績の概要 |
油圧動力伝達システムの作動媒体として用いられる作動油には気泡が含まれており,この気泡はいわゆるスポンジ効果により油の剛性を低下させ,システムの応答性を損ない,振動・騒音や機器破損の原因ともなる.しかしながら,作動油中にどの程度の気泡量が含有していると機器の性能を損ない故障に至るかの定量的な指標は明らかとなっていない.これは現状では,作動油中の気泡含有量を実時間で精度よく測定したり,調整したりすることが極めて難しいためである. 本研究課題の目的は,これまでに申請者らが独自に開発した装置による油中気泡の分離除去技術と作動油中の含有気泡量の測定技術を組み合わせ,作動油中の気泡含有量を高精度で任意に調整できる「高精度な気泡量制御システム」を実現することである. 平成31年(令和1年)度は,気泡含有量が多い条件での油の剛性(体積弾性係数)を測定する実験装置を新たに製作し,前年度に製作した油中気泡含有量の調整制御実験用油圧回路と組み合わせることで,調整した油中気泡含有量を精度良く測定する作動油循環システムを製作した.また油中に分散する気泡の状態が高圧化における油の剛性にどのような影響をおよぼすかを明らかにするため,加圧容器内を可視化できる装置も製作した. 実験の結果,気泡含有量の小さい範囲では,油中に分散する気泡が高圧下においてつぶれて油中に溶解する時,体積変化に対する圧力変化には特徴的な現象が観測された.また加圧行程と減圧行程では体積変化に対する圧力変化の履歴が異なることが明らかとなった.これらのことから,油の剛性には油中気泡の溶解と析出が大きく関与していることが類推される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らが開発した装置による油中気泡の分離除去技術と作動油中の含有気泡量の測定技術を組み合わせ,作動油中の含有気泡量を体積含有率 1 ~ 40 %の範囲で±1 %の目標精度で任意に調整できる高精度な気泡量制御システムの実現に目途が付いた. しかし油中気泡量だけでなく,油中気泡が油中に分散する状態が油の剛性(体積弾性係数)に影響を与えることも明らかとなった.すなわち小さな気泡が分散する油の状態と,大きな体積の気泡の塊が存在する油の状態では,圧力の動的変化に対する気泡の挙動が異なり,加圧行程と減圧行程でも異なることが実験的に確認された.これは油の剛性が油中気泡の状態や溶解・析出と関係があること示唆している. 次年度はこれらの現象の解明のため,装置に一部改良を施したうえで,加圧・減圧時間や変化速度など様々な条件を変えた実験を行う必要があるという課題も明らかとなった. なお本申請に関わる高精度な気泡量制御システム手法は研究協力者の企業との共同出願により「気泡含有量調整システム」として特許申請を行った.
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今後の研究の推進方策 |
本申請課題のコア技術として,気泡分離装置の物理パラメータや作動油の流動条件が気泡分離性能に大きな影響を与えることが明らかとなっている.令和2年度は,これまでの流れの数値解析の研究成果を踏まえ,引き続き,放気口に開閉部を持つ気泡分離装置による流れの数値解析モデルにより作動油や気泡に見立てた粒径の異なる粒子流れの数値解析を実施して,開閉周期や時間が油中気泡含有量の調整制御性能に与える影響を数値解析的に明らかにする. また気泡含有量が少ない場合の油を加圧・減圧する実験により明らかとなった圧力変化と体積の変化率の特徴的な関係から,気泡が油中に分散する状態や気泡の油中への溶解や油からの析出を考慮した油の剛性の数学モデルの修正を試みる.またこれらの数学モデルを自動車のトランスミッションオイルの動的挙動に適用し,振動や騒音などとの因果関係を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度後半で,油中気泡が油中に分散する状態が油の剛性(体積弾性係数)に影響を与え,これが測定精度に影響をおよぼす可能性があることが明らかとなった.これらの課題や精度に与える影響を明らかにするため,装置の改良と新たな測定用温度センサの購入と取り付けの必要が生じた.次年度分で計画した物品費の一部金額と合わせた額により,装置の改良と温度センサの購入を行う計画のために,次年度使用額(299千円)が生じた.
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