研究課題/領域番号 |
18K03922
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 優 東京工業大学, 工学院, 助教 (10323817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液体水素 / 液体窒素 / 回転機械 / キャビテーション / 熱力学的効果 / キャビテーション / 翼端隙間 / スケール効果 |
研究実績の概要 |
研究の初年度は、ターボ機械に発生する極低温キャビテーションに適した数学モデルに基づく数値解析を行った。 本数値解析では、気相部は球形気泡群と仮定し、気泡数密度、気泡質量、気泡半径、気泡半径の時間変化率の4つの基礎式を用いた。同一空間領域内での大小気泡の混在による影響(蒸発凝縮量やスリップ速度の計算)を厳密に取り扱うため気泡径分布モデルを導入し、気泡群を気泡質量に基づいて階級化し、各階級の気泡数密度の確率密度関数の分布を考慮した。ここで階級間の気泡数密度の確率密度関数の移流速度は気泡1個当たりの蒸発・凝縮量となる。各階級の平均気泡に対しては、気泡の半径方向振動を正確に取扱うため簡略化しないレイリープレセット方程式を、蒸発・凝縮量を正確に求めるため気泡周りに発達する温度境界層内の熱伝導方程式を適用した。これら気泡径分布、レイリープレセット、熱伝導の3つを連立させて、気相部の4つの値の時間変化を求めた。一方、流れ場全体の圧力・速度・温度は、気泡群を内包する液体(気液混合物)と仮定し求めた。これらの数学モデルをOpenFOAMに導入し、実験結果を有する液体窒素中で回転する3次元のインデューサ上に発生するキャビテーションを計算した。その結果、第1階級の小さな気泡群は翼端部分やキャビテーション領域の外縁部で観察された。一方、第2階級の大きな気泡群はインデューサ翼面の低圧領域や逆流渦の中心軸付近で観察された。第2階級の気泡群は通常、第1階級の気泡群に取囲まれている。インデューサ上に複数現れる竜巻状の逆流渦キャビテーションに注目すると、公転速度はインデューサの回転速度よりも遅いので、逆流渦キャビテーションは先行翼面上から後行翼面上に次々と遷移した。本数値解析コードは、実験で観察されたキャビテーションを十分な精度で再現した。 本結果は2本のジャーナル、2回の国際会議、3回の国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度は、ターボ機械に発生する極低温キャビテーションに適した数学モデルに基づく数値解析を行い、これらの知見を用いて試験装置を設計した。 はじめに、液体水素キャビテーションの可視化技術を確立した。液体水素(三重点温度13.8K~臨界点温度33.0K)は低温であるため、材料の選定(耐低温脆性および耐水素脆性)、回転軸からの熱伝導による熱侵入対策、外部容器からの輻射による熱侵入対策(輻射シールド)、ベアリングの凍結対策(固体潤滑またはベアリングの常温維持)、可視化窓の除霜などの技術的な課題を克服するよう工夫して設計した。また、軸受けやバルブの可動部から漏れ出る水素ガスは可燃性であるため、水素対応品・防爆対応品の使用、または、窒素ガスパージによる水素可燃域の回避などの対策を施す設計をした。 供試マイクロインデューサA(直径20mm)は、現有するJAXAより貸与されているHIIロケットの第二段用ロケットエンジンLE-5の液体酸素用ターボポンプインデューサ開発の際の試作品の内の1つ(直径65.3mm:こちらをインデューサBと称す)の相似形状とした。これは、現有する可視化試験装置に設置したインデューサBと、新造した可視化試験装置に設置したインデューサAを比較することで、インデューサに生じるキャビテーションに及ぼす相似則について明らかにするためである。そこで、インデューサAの形状を3次元レーザ計測および接触計測により3D-CADデータ化し、これを基に、相似のマイクロインデューサを供試体として設計した。本マイクロインデューサを回転する軸やベアリング、駆動するモータやそのドライバなど、流体力学的な相似を考慮して定めた所定の性能を満たすように設計した。これらの各備品は既に各工場に製作依頼済みである。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度は試験装置を完成し、水を用いた可視化試験を実施する。 2019年4月現在、前年度に実施した数値解析の知見を活かして試験装置の設計は完了しており、装置の部品は各工場に製作依頼済みである。供試マイクロインデューサ(直径20 ㎜:以下区別するためインデューサAと称する)をはじめ、回転軸など各部品が納品され次第、組付け装置を完成する。 はじめに、装置の健全性を確かめるため、水を用いて可視化試験を行う。この段階で、高速度ビデオによる可視化、PIV計測に関する手法を確立する。 さらに、現有する相似形状のロケットインデューサ(直径65.3 mm:以下区別するためインデューサBと称する)との比較により、翼端隙間/インデューサ直径の比のスケール効果の解明に取り組む。具体的には、現有する試験装置では、インデューサB(直径65.3mm)を翼端隙間0.5mmで設置しており、新造した試験装置にインデューサA(直径20mm)を翼端隙間0.5mmで設置し、水の試験を行う。さらに、新造した試験装置にインデューサA(直径20mm)を翼端隙間0.15mmで設置し、インデューサBと全く相似な流路により水の試験を行う。試験は、流量係数一定条件の下でキャビテーション数(=入口圧力)を徐々に低下させキャビテーションブレイクダウン(=キャビテーション発生によりポンプ吐出が喪失する現象)に至る過程を高速度映像、PIV、圧力・温度計測を用いて試験する。インデューサÅとBの結果を比較し、翼端隙間が一定の条件、および、流路形状が相似な条件で、翼端隙間/インデューサ直径の比が、キャビテーションブレイクダウン過程に及ぼすスケール効果を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験装置の完成が第2年度にずれ込んだため、試験装置製作費の支出が第2年度となった。
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