研究課題/領域番号 |
18K03922
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 優 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (10323817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 液体水素 / 液体窒素 / 回転機械 / キャビテーション / 熱力学的効果 / 翼端隙間 / スケール効果 |
研究実績の概要 |
初年度は数値解析を行い、その知見を活かして供試マイクロインデューサ(直径20㎜:インデューサA)を設計した。第二年度は、および、それを試験するための補器類(回転軸、軸受け、可視化窓付き試験部、流量計、圧力計、温度計など)を組付け装置を完成した。 インデューサAは、JAXAより貸与されたロケットインデューサ(直径65.3mm:インデューサB)と相似形状である。この2つのインデューサの比較により、翼端隙間/インデューサ直径の比のスケール効果の解明に取り組んだ。具体的には、現有する試験装置では、インデューサBを翼端隙間0.5mmで設置しており、新造した試験装置にインデューサAを翼端隙間0.5mmで設置し、水の試験を行った。さらに、新造した試験装置にインデューサAを翼端隙間0.15mmで設置し、インデューサBと翼端隙間も含めた流路が完全形状相似の条件で水の試験を行った。この3つの組合せの試験条件の下で、キャビテーションブレイクダウン(=キャビテーション発生によりポンプ吐出が喪失する現象)に至る過程を高速度映像、圧力・温度計測を行った。その結果、以下の知見を得た。 1:同直径のインデューサでは,全ての流量係数において翼端隙間の大きいインデューサの揚程係数は,翼端隙間の小さいインデューサよりも大きくなった. 2:直径・翼端隙間が完全形状相似のインデューサでは,小流量係数においては大直径のインデューサの揚程係数は小直径のインデューサよりも大きくなった.一方,大流量係数においては両直径のインデューサの揚程係数は同程度となった. 3:直径・翼端隙間が完全形状相似のインデューサでは,大直径のインデューサの方が小直径のインデューサと比べて,より低キャビテーション数まで揚程係数の低下,および,キャビテーションブレイクダウンが生じないことがわかった. 本結果は3編の国際ジャーナル、1回の国際会議、1回の国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度は、ターボ機械に発生する極低温キャビテーションに適した数学モデルを構築し、それをOpenFOAMに導入した上で数値解析を実施した。さらに、これらの知見を用いて試験装置を設計した。 第二年度は、初年度に設計した供試マイクロインデューサ(直径20 ㎜)の製作、および、それを試験するための補器類(回転軸、軸受け、可視化窓付き試験部、流量計、圧力計、温度計など)を製作・購入、組付けを行い試験装置を完成した。さらに、完成した試験装置により水を用いた可視化試験を実施した。 第三年度は完成した試験装置の諸課題、すなわち、(特に低流量域での)流量計測精度の向上、高速度ビデオによる可視化映像の鮮明度の向上、圧力計測の高精度化・応答高速化、温度計の確度・精度の向上などを目指し、より精度の高い計測を実施する計画である。具体的には、低流量用のタービン流量計をコリオリ流量計を用いて校正する、高速度ビデオメーカに協力してもらい解像度・撮影速度の高い高速度ビデオの使用する、小型・高精度・高速応答の圧力計を導入し校正を実施する、熱電対を校正済白金抵抗測温帯により校正する、より高速応答のデータロガーの導入するなどを予定している。現在は、これらを実施するための機器の調達を実施している。 さらに、次年度に実施を予定する液体水素を用いた可視化試験に使用するための機器の選定を行い、各メーカに協力を要請している。 第二年度までの研究の実施状況、並びに、本年度の研究の進捗状況は、当初の計画と比較しておおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
第二年度に得られたインデューサのキャビテーションブレイクダウン性能に及ぼすスケール効果に関する結論は、インデューサの前縁形状の相似形状からの逸脱(本来滑らかに角が取れているべき前縁形状が、薄肉化と工作精度の影響で望まれない鋭角部が存在すること)に起因する可能性を有する。第二年度に得られた、サイズ違いのインデューサの間のキャビテーションブレイクダウン性能の変化がスケール効果に起因するという結論を証明するためには、第二年度までに達成できていない諸課題、すなわち、(特に低流量域での)流量計測精度の向上、高速度ビデオによる可視化映像の鮮明度の向上、圧力計測の高精度化・応答高速化、温度計の確度・精度の向上などを達成し、より精度の高い計測を実施する必要がある。 このため、第三年度は水を用いた可視化試験を実施し、上記の未達成課題(計測法の確立、計測精度の向上)の克服を図る。2020年6月現在、コロナウイルスの影響で大学の実験室がロックダウンされた状況ではあるが、前年度実施した供試マイクロインデューサ(直径20 ㎜)、および、それを試験するための補器類(回転軸、軸受け、可視化窓付き試験部、流量計、圧力計、温度計など)を組付けた装置は既に完成しているため、これに、計測系の改良を施して水を用いた試験を実施する計画は現実的であると判断している。 これと同時並行で、次年度に実施予定の液体水素を用いた可視化試験の準備も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に予定している液体水素を用いた試験の実施に関わる購入品の支払いが済んでいないため。
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