研究課題/領域番号 |
18K03928
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
田中 満 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (20281115)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 気泡 / 一様せん断乱流 / 揚力 / 渦構造 |
研究実績の概要 |
本研究では,せん断流における上昇気泡の水平移動に対する乱流の影響を調べている.平成30年度は,汚染された水中の直径約0.5mmの空気気泡,および,純水中の直径約1mmの空気気泡を対象に,一様せん断乱流中での運動を調べた.また,より効率的な計算手法の開発にも取り組んだ. 汚染された水中の微小気泡に関しては,汚染物質により界面が完全に固体化したものと仮定し,非常に軽い球形固体粒子として取り扱った.気泡ストークス数が1程度(気泡径が乱流渦の断面直径の半分程度)となる状況に着目して,数値シミュレーションを実施した.その結果,乱流中の上昇気泡の水平移動は,層流中のそれとは逆方向であることがわかった.また,気泡上昇速度が乱流変動速度と同程度の場合に逆方向への移動が最も顕著となること,気泡の逆方向への移動が渦構造によりもたらされていること,を見出した.これらの結果を纏めた論文を学術雑誌に投稿し,4月に掲載が受理された. 純水中の直径約1mmの空気気泡に関しては,気泡界面の変形も考慮した数値シミュレーションを実施した.層流中の上昇気泡に働く揚力は,大きく変形する気泡の場合にはその向きが反転する.ここでは,人為的に界面張力を弱めた計算も行い,揚力の向きが反転する場合についても調べた.その結果,乱流中では層流中と比較して気泡の水平方向移動速度が大幅に低下すること,その低下の割合は界面張力が弱い場合により高くなること,を明らかにした.これらの結果は,第7回アジア計算熱流体シンポジウムにおいて発表の予定である. 計算効率の向上を目指して,計算手法の開発も行った.気相の体積率を表現する関数のみに細かな格子を割り当て,流体変数には粗い格子を割り当てることにより,低計算コストで同等の結果が得られることを示した.この結果は,第12回アジア数値流体力学会議において発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,せん断流中の上昇気泡の水平移動に対する乱流の影響の全容解明を目指している.補助事業期間において解明を目指す具体的な内容は,(a)乱流の影響により気泡の水平移動の向きは反転するか,(b)気泡の水平移動に対して渦構造が果たす役割,(c)乱流中での気泡変形・界面汚染度と気泡水平移動との関係,である.解析対象は,計算機能力の限界を考慮して,(1) 汚染された水中の直径0.5mmの空気気泡,(2) 純水中の直径1mmの空気気泡,(3) 純水中の直径5mmの空気気泡,に設定している. 現在までの進捗状況は,以下の通りである. (1)に関しては,目標通りに (a)「乱流による水平移動方向の反転」を確認し,(b)「渦構造が果たす役割」を解明することができた.(2)に関しては,(c)「乱流中での気泡変形と気泡水平移動との関係」に関して新たな知見を得ることができた.この課題は,平成31年度に本格的に行う予定であったので,想定よりも順調である.一方,(3) 純水中の直径5mmの空気気泡に関しては,その準備があまり進んでおらず,ペースアップが必要な状況である.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」において説明した(2)の純水中の直径1mmの空気気泡についてさらに詳しく調べる.特に,気泡の水平移動と渦構造の関係について詳しく調べる.また,気泡と渦構造の相互作用が乱流の発達に与える影響についても考察する. (3)純水中の直径5mmの空気気泡に関しては,流れ場として定常な一様せん断乱流を採用した場合,小気泡に分裂する可能性が考えられる.まずは,予備計算を行い分裂の有無を確認する.分裂する場合には,流れ場としてより弱い変動速度場を採用することが可能か検討する. (1)の研究は,解析対象を「純水中の直径0.5mmの空気気泡」に拡げることにより発展させる.純水中の微小気泡の場合にも水平移動方向の反転が起こるかを調べ,乱流中での界面汚染度と水平移動との関係についての理解を深める. 解析対象を拡げるためには,大規模計算の実施が必要である.そのための数値計算手法の改良にも挑戦する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じたのは,大型計算機の使用料が想定より安かったこと,および,謝金により行う予定であった大型計算機のデータ整理が年度内に間に合わなかったことによる.今年度は,大型計算機のデータ整理を依頼するとともに,大型計算機の使用量を増加させる計画である.
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