研究実績の概要 |
JAXAのMSBS風洞において、Re数領域3,000~13,000におけるアーチェリー矢の空力特性を測定した。加速度センサーを用いる飛翔実験と比較するために、ストレート矢羽で計測した。層流境界層に対応する1.5程度の抗力係数が得られた。 電通大実験室と江戸川区の屋内アーチェリー場でRe数領域10,000~18,000における飛翔実験を行った。圧縮空気を用いたたわみ振動させない発射では、Re数が14,000以下で層流抗力係数値が得られ、MSBS風洞実験での測定結果と一致した。また、14,000~18,000が遷移領域がとなることが確認された。従来の高速度カメラ画像の解析に基づく計測値と加速度センサーによる計測値はおおむね一致するが、後者の標準偏差がより小さくなることから測定精度の向上が期待される。一方、矢の飛翔軌道と飛翔姿勢を剛体の運動方程式に基づいた数値計算結果からは、矢の発射における初期条件(特に矢の初期角速度)を理想化することで、飛翔中の矢につく迎角を低減できることが確認されているので、今後はそのような矢の発射を試みて、乱流遷移に対する迎角の影響を調べる。 境界層遷移の理論的な研究では、まず無回転状態の矢側面境界層流れの線形安定性を平行流近似に基づいて解析した。Re数領域10,000~20,000では、周回方向波数m=1とm=2の非軸対称モードが成長する。しかし、その成長率は小さく、成長領域も狭いために、N値で評価すると乱流遷移には至らないと推定された。飛翔実験で実際に観察される乱流遷移は、線形不安定性を経由しないメカニズムによる可能性があることが分かった。また、矢羽の効果で矢は自転するため、境界層流れの不安定化に対するその影響を調べた。スピンパラメターの増加にともなって、不安定性成長率は増加するが、N値は乱流遷移には至るほどには増加しなかった。
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