研究課題/領域番号 |
18K03943
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
宮嵜 武 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (50142097)
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研究分担者 |
高橋 直也 東京電機大学, 工学部, 教授 (40313423)
杉浦 裕樹 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 主任研究開発員 (90358664)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アーチェリー矢 / 空力特性 / 乱流遷移 / MSBS風洞実験 / 飛翔実験 / 加速度センサー / 高速度カメラ |
研究実績の概要 |
アーチェリー矢の空力特性を「MSBS風洞実験」と「飛翔実験」によって解明した。飛翔実験では、アーチェリー矢のシャフト内に加速度センサーを挿入して、非定常的な矢の減速率と飛翔姿勢を計測した。センサーで計測可能な回転角速度が2000dpsであるために、矢羽根をストレートベインに替えて、二つの実験を行った。風洞実験では、気流に対して矢を平行に置くと矢側面の境界層流れがレイノルズ数14,000まで層流状態となり、0.75度傾けると、レイノルズ数10,000で乱流遷移することを示した。一方、飛翔実験はレイノルズ数13,000~21,000の領域で行われ、15,000~19,000の領域では層流状態と乱流状態が非定常的に交互に現れることを示した。高速度カメラ映像からの解析結果は、加速度センサーから得られる瞬間的な抗力係数の時間平均となることを確認した。センサーのデータは、層流から乱流への遷移と乱流から層流への遷移ともに瞬間的(0.01秒以内)の完結すること示唆している。風洞実験結果と飛翔実験結果は異なるレイノルズ数ではあるが、両者は概ね整合している。ただし、加速度センサーから得られた抗力係数が少し小さいようで、今後の検討が必要である。 平行流近似に基づく「線形安定性理論による解析」では、回転する矢の境界層流れは非回転時より不安定化しやすいことを示した。また、平板境界層におけるストリーク構造を重ねた基本流に対する二次的不安定性解析によって、特に上流側で不安定化しやすくなることを示した。しかし、両解析結果ともに、乱流遷移に十分なほど大きいN値を与えなかった。次の段階としては、傾いた矢の境界層流れの安定性を調べる。そのためには、基本流を高精度で求める必要があり、引き続き直接数値計算を実行中である。また、平行流近似に基づかないBiGlobal安定性解析を実行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発が遅れ気味であった加速度センサーが完成し、信頼性の高い矢の減速率(そして抗力係数)が計測できるようになった。そのデータは、乱流から層流そして層流から乱流への遷移現象が瞬間的に起きることを示している。したがって、飛翔中の矢の側面の境界層流れは、先端から後端まで全て層流もしくは全て乱流状態となっている。この事実は、矢の途中で乱流遷移が発生して、その場所が時間的に変動するだろうとの、従来の予想と異なるものであり、興味深い。矢の飛翔姿勢と遷移の関係を精査して、遷移機構を解明する必要がある。
安定性の理論解析では、回転する矢と非回転矢のストリーク構造を伴う境界層流れの二次的不安定性解析を行い、ともに上流部での不安定性が大きく高まることを確認した。どのようなストリーク構造が矢側面に発達するかを調べるために実行した直接数値計算では定常解を得られていないため、二次的不安定性が乱流遷移機構の要であるかが確認されていない。
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今後の研究の推進方策 |
MSBS風洞実験:重心周りに回転振動する矢の空力特性を計測する。飛翔中の矢の姿勢変化(迎角振動)を模擬することで、乱流遷移機構に迫る。
飛翔実験:加速度センサーによる計測で、鏃や矢羽の空力特性への影響を調べる。また、屋外アーチェリー場で飛翔実験を行い、乱流遷移現象に対する背景風の影響を調べる。発射時の初期速度・角速度を高速度カメラ映像から求めて、矢の飛翔軌道と飛翔姿勢を剛体力学の運動方程式に基づいて数値計算して、加速度センサーのデータとの比較を行う。
乱流遷移機構の解明:鏃形状を考慮した非回転矢と回転矢のBiGlobal安定性解析に加えて、直接数値計算で求める傾いた矢側面に発達するストリーク構造をともなう主流の安定性解析を行う予定である。矢側面境界層流れにおける瞬時の遷移は上流側の不安定性が本質的な役割を果たしており、その詳細を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
水槽での観察のための模型/鏡の固定装置(ジグ)に想定外の振動が起こり、改良に手間取ったため、予定してた物品の購入に至らず、残額が出た.
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