研究代表者は、2019年度に、任意の温度差がある2つの壁面間の0.1ミクロン以下の超微小隙間潤滑を記述する拡張された潤滑理論を気体分子運動論の基礎方程式であるボルツマン方程式から導いた。この理論は、ハードディスクにおける磁気ディスクと磁気ヘッドの間の潤滑設計に大きな役割を果たす。その導出においては、各摺動面における温度はそれぞれ一様という仮定を設けていた。一方、将来のハードディスクにおいては、磁気記録密度をさらに増加させるため、磁気ディスクの一か所をレーザービームで加熱する熱アシスト記録方式が本格的に研究されている。レーザービームの加熱により、磁気ディスクは数ミクロン程度の部分のみが集中的に加熱されるため、2019年度に導かれた理論ではこのような潤滑をカバーできない。そこで、2020年度は、前年度の理論解析を拡張し、摺動面に沿って任意の温度分布がある場合でも適用できる、さらに一般化した潤滑理論を、ボルツマン方程式に基づいて調べた。前年度の解析手法を基本とし、漸近解析を行った。壁面温度分布の存在のため、解の構造はより複雑になる。また、前年度の解析と異なり、潤滑方程式に現れる係数関数(これは数値的にしか求められない)が2つのパラメータによって決まるものであり、実際問題に適用するためにはこれら2つのパラメータの2変数関数として係数関数をデータベース化する必要がある。これらの困難を解決し、上述の状況で適用できる潤滑方程式を閉じた形で導出した。導出された潤滑方程式の検証のため、ボルツマン方程式による直接数値解析の結果と比較した。その結果、壁面温度が20度と300度である場合、隙間が0.6ミクロンから0.006ミクロンの範囲で、潤滑方程式が与える潤滑揚力はボルツマン方程式による結果と5パーセントの精度で一致した。
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