研究課題/領域番号 |
18K03950
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
後藤 知伸 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (00260654)
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研究分担者 |
中井 唱 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (80452548)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細菌 / 走化性 / べん毛 / 方向転換 / 誘引物質 |
研究実績の概要 |
周毛性細菌は菌体の周りに複数の螺旋型べん毛を持ち,束にして回転させることで直進の遊泳を行う.また回転方向の切り替えによりべん毛の束が解け,方向転換(Tumble)を行う.この遊泳とTumbleを繰り返すことで,より好ましい環境に集まるとされている.本研究では毛細管先端から誘引物質が拡散する環境下において,サルモネラ菌の挙動を顕微鏡観察し,以下の結果を得た. 1.誘引物質にセリンを用いて,細菌単体の挙動を計測した.マイクロインジェクタを用いてごく微量の細菌懸濁液を吐出することで,細菌単体を見失うことなく長時間観察(5分程度)を実現した.これまでは,誘引物質の濃度が高い方向に泳ぐ時にTumbleの頻度が下がることで走化性を示すとされていたが,今回の調査では新たに,高濃度方向に泳ぐ時に大きな角度のTumbleが抑制されることを発見した. 2.2種類の誘引物質(セリンとアスパラギン酸)について,濃度を変えた時の走化性の強さについて調査した.毛細管に充填する誘引物質の濃度が下がるにつれて,細菌の集積する範囲が狭くなる事と,同濃度ではセリンよりアスパラギン酸の方が集積する範囲が広い事が分かった.これにより,誘引物質により細菌の検知可能な濃度が異なることが示唆される.また,集積範囲内における細菌単体の挙動の詳細を観察した.遊泳速度,Tumble抑制の度合いを計測したが,セリンとアスパラギン酸で有意な差は見られなかった.これらから,誘引物質を検知した時の挙動は,濃度勾配の正負には依存するが,大小には依存しないものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は4年間で(A)個々の細菌運動特性の把握,(B)数理モデルの作成,(C)走化性の強さの計測,を行う予定であった.上記の研究実績の通り,初年度でサルモネラ菌の誘引物質セリン・アスパラギン酸への応答について調査を行い,(A)(C)に関して十分な計測データを得た.(A)の結果を踏まえた(B)のモデル作成には未着手であるが,(A)において従来の定説には無い走化性メカニズムを発見したこと,(C)において誘引物質の種類による差がはっきり分かったことを以て,「おおむね順調に進展」と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
1.数理モデルの作成:上記の研究実績1を踏まえ,既存のバイアス付きランダムウォークモデルの修正を行う.これまでのモデルでは,(i)細菌が一定距離進むごとにTumbleするかしないかを決定する, (ii)誘引物質から遠ざかる時は必ずTumbleし,近づく時はある確率でTumbleする,(iii)Tumbleの方向はランダムである,としていた.このモデルに,「誘引物質に近づく時はTumble角度が小さくなる」効果を加えて数値解析を行い,観察との比較を行う. 2.他の菌での走化性計測:調査対象のサルモネラ菌は複数のべん毛を持ち,大腸菌と並び走化性の計測でよく用いられる菌である.昨年度の実績(研究実績1)により,Tumbleの角度に大小があることが分かったが,これは複数のべん毛個々の回転方向が関わる複雑な現象であると考えられる.走化性計測と同時にべん毛個々を観察するのは困難なので,まずはべん毛を1本のみ持つビブリオ菌(Vibrio alginolyticus)について,走化性計測を行う.1本の螺旋型べん毛の回転方向を切り替えることで方向転換を行うため,方向転換角度はほぼ180度(後方)であり,サルモネラ菌とは異なる挙動が予想される.まずは誘引物質存在下において,ビブリオ菌の速度分布,方向転換角度分布を計測し,走化性の強さが誘引物質の種類と濃度にどう依存するかを調査する.なお,Vibrio alginolyticusがセリンに対し正の走化性を示すことは調査済みである. 3.観察方法の検討:現状の観察方法の問題点として,走化性計測とべん毛観察が同時に行えないこと,遊泳軌跡の奥行き方向の情報が得られないことが挙げられる.前者についてはべん毛の蛍光染色,後者についてはピエゾによる対物レンズの高速スキャンなどを用いて計測精度の改善を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
1,600円と少額であり,特記すべき理由はない.次年度分と合算して有効に利用する予定である.
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