研究課題/領域番号 |
18K03953
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高垣 直尚 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (00554221)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運動量輸送 / 風波 / 台風 / 気泡層 / 砕波 |
研究実績の概要 |
台風など熱帯低気圧下における高速気流場の風波気液界面を通した運動量輸送機構を明らかにし,信頼性の高い輸送モデルを構築することは,台風の強度を正確に見積もるうえで極めて重要である.既往研究では,台風下の海表面近傍は,液滴の飛散や気泡の巻き込みなどの激しい砕波を伴う複雑な気液二相乱流場を呈し,特に海表面は,気泡同士が連続的にくっついて層を成す,いわゆる気泡層に完全に覆われることが報告されている.そこで本研究では,高速気流による超高密度気泡層の生成機構・気泡層を通しての運動量輸送機構を解明することを目的とする.2019年度は,(1)九州大学応用力学研究所の大型風波水槽にて,運動量収支法を用い,高速気流により発生した気泡層を通しての運動量輸送量の測定を行った.さらに,風が吹き始めてからの距離が6.5mから35mまでの計4ケースについて測定を実施し,吹送距離と運動量輸送量の関係について検証を行った.(2)近畿大学設置の小型風波水槽にて,波ループ法を用い水送距離を延長した状態において,高風速時の水面における砕波強度の定量解析を行った.(3)1,2におけるデータを含んで,高風速域における気泡層を有する風波気液界面の形状と運動量輸送量との関係について解析を実施した.その結果,気泡層を有する風波気液界面を通しての運動量は,通常想像される摩擦速度のみではなく,摩擦速度・粗度粗さ・波速の独立した3要素に支配されることを明らかとした.これらの研究実績の一部は,査読付き英文誌1報に現在投稿中であり,国際会議を含む8度の学会講演会において報告される予定であった.しかし,新型コロナウィルス(COVID19)の影響により複数の国際会議と国内講演会が中止となり,一部の研究成果は未発表である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度までには,高速気流により生成される超高密度気泡層を通しての運動量輸送機構を明らかにするために,九州大学応用力学研究所の大型風波水槽を台風シミュレーション水槽へと改良し,さらに,運動量輸送量の直接測定および高密度気泡層の定量解析手法の確立することを目的とした.具体的には,九州大学における実験研究・近畿大学における実験研究・計算研究の3つの研究を進めた.研究1においては,2018年度に完備された大型風波水槽を使用し,2019年度に,一般に海洋における高風速域の30m/s以上の風速を再現し,その高密度気泡層に覆われた水面にかかる運動量輸送量の直接測定法を確立した.研究2においては,2018年度に確立された吹送距離延長技術をもちいて,2019年度に水面の気泡層の定量分析値としてバグブレークアップ(袋状の液糸の崩壊現象)の頻度を選定し,高速度カメラを使用した画像解析技法を確立した.3つ目の計算研究に関しては,界面追跡方法として精度の高いLEVE-SET/VOF法を使用し,気泡層生成の初期現象として単一液滴の水面衝突現象を選択し,準備計算を実施した.以上より,2018年度および2019年度を通して,研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には,高速気流により生成される超高密度気泡層を通しての運動量輸送機構を明らかにするために,九州大学における実験研究・近畿大学における実験研究・数値計算研究の3つの研究を引き続き実施する予定である.研究1においては,高速気流場における気泡層実験を行うために九州大学応用力学研究所の大型風波水槽を使用する.実際の運動量輸送量は運動量収支法を用いた直接測定により実施する.測定された運動量輸送量は,京都大学やロシア人共同研究者が所有する実験水槽における値などとの比較解析を行う.研究2においては,近畿大学に設置されている小型風波水槽を使用する.気泡層実験では,あらかじめ水槽内にごく微量のTriton-Xなどの界面活性剤を混入し,混合することにより,界面に厚さ数cm程度の気泡層を形成させる.その後,ファンを用いて風波水槽内に風を流入させ,気泡層にせん断力をかける.風速は,水面波の発生しない風速5m/s以下とする.流動場測定および気泡層測定は(研究1)と同様の方法で行い,気泡層を通しての運動量輸送量を直接測定する.また,境界層厚さが運動量輸送量に及ぼす影響についても検証を行う.研究3においては,実際に気相と液相の中間の特性を持つ第三層として気泡層を設定し,気泡層を有する混相乱流場を対象に数値計算を実施する.本計算は本研究室で保有するワークステーションを用いて並列計算により実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度初頭より投稿していた査読付き英語論文の採択が遅れ,約40万円の印刷費を今年度予算で支払うことが出来なかった.そのため,約40万円を次年度へと繰り越しを行うこととした.以上より,次年度使用額が生じた.本繰越金は次年度に印刷費の支払い等に充てる予定である.
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