本研究では、昆虫の羽音の現象理解とその発生プロセスを明らかにするために、羽ばたき運動中の時系列計測(翼の運動、空気力、音場)の同時計測と数値解析を行った。(a) 羽ばたき運動、空気力、音場の同時計測、(b) 羽ばたき運動中の高解像度数値解析とその妥当性の確認、(c) 流れ場・音響場の詳細解析が重要な研究項目である。
本年度は、前年度に構築した実験計測システムを用いて実際の昆虫を用いた計測の実験の予定調整を行い、限られたケースではあるが実験を実施し、データを取得することができた。計測したデータの計測精度の詳細な検討を行い、音場の計測については十分な精度で計測できていることが確認できた。一方で、空気力と運動の計測データについては改善すべき課題点が見つかったため今後の課題となった。 数値解析については、これまで実施してきた高解像度計算手法を利用した静止飛行中の昆虫羽ばたき運動を模擬した翼モデルの空力音響計算結果を複数のデータ科学手法を適用し解析を行った。また、計算した音場の周波数解析や指向性マップの作成、流れ場と音場の計算データを基に、羽周りに生じた前縁渦と後縁渦が発生させる圧力場の時間変化、剥離した前縁渦と後縁渦によって生じた後流中に形成された双子の渦、迎え角が小さい時に生じる翼の上下面に生じたせん断層の剥離流れとその干渉が羽音の発生プロセスに強く関連していることを明らかにすることに成功し、それらの成果を国内の学術講演会において招待講演として発表することができた。また、数値解析結果で示された羽音の特性が実測した音圧のスペクトルデータの特性と類似していることが確認でき、本研究で得た一連の数値解析のデータ分析の妥当性の一部を裏付けることができた。
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