潤滑油が実用燃料の自着火を促進するメカニズムを明らかにし,その着火特性を予測可能な化学反応モデルを構築することを目的として研究を推進している.期間は3年間であり,1年目は,実用燃料を構成する様々な炭化水素から構造別に代表成分を選択し,それらの炭化水素の着火特性に,潤滑油が及ぼす影響を検討した.その結果,潤滑油を構成する基油は燃料に寄らず自着火を促進する一方で,潤滑油を構成する添加剤は,低温酸化反応を持たない炭化水素については,着火を促進せず,低温酸化反応を持つ炭化水素については着火を促進する場合と促進しない場合があることを明らかにした.2年度目は,添加剤の燃焼中間生成物が炭化水素の自着火に影響を及ぼしている可能性があることから,添加剤を酸化させた場合の生成物を,流通反応管を用いて明らかにした.その結果,燃焼場では,主に酸化カルシウムが主成分になることが明らかになった.そこで,最終年度では,添加剤の酸化後の主成分である酸化カルシウムを含むイソオクタン予混合気を,急速圧縮装置を用いて圧縮自着火させ,酸化カルシウムが燃料の自着火に及ぼす影響を明らかにした.酸化カルシウムを添加した場合,イソオクタンの着火遅れ時間は,添加しない場合と比べてわずかに着火遅れ時間を短くするが,その差はほんのわずかであることが明らかになった.一連の実験結果から,潤滑油の自着火を促進する主たる要因は基油である炭化水素成分であり,それに溶解している添加剤の影響はわずかであることがわかった.これらの知見を基に潤滑油が実用燃料の自着火を促進する化学反応モデルとして,基油の主成分の酸化過程を含む化学反応モデルを構築した.一方で,潤滑油の添加剤が燃料の自着火に及ぼす影響に関するメカニズムについては,この研究期間では十分に明確にはならなかったことから,継続的な研究が必要である.
|