研究実績の概要 |
火炎は壁に近いと,壁の影響を強くうける.熱的消炎は,壁への熱損失によるもので,これまでに多数の研究例がある.一方,化学的消炎は,燃焼反応に重要であるOH, Hなどの活性ラジカル種が壁面での吸着,再結合,脱離反応によるラジカルの消滅が原因で起きる現象である.この化学的消炎効果に関しては,熱的消炎効果と分離して評価することが難しく,また,燃焼場では定量計測可能なラジカルが限られることから,その詳細なメカニズムには依然として不明な点が多く、モデル化が難しいとされてきた.そこで本研究では,反応メカニズムが比較的に単純な水素火炎に着目し,水素燃焼の中間生成物であるOH, OとHラジカルを系統的に測定することで,材質の異なる燃焼器壁面における化学的消炎効果を定量評価し、モデル構築する。 燃焼室として高さ1.5 mmの石英製薄型流路を試作し,流路内に層流水素火炎を形成された.壁面近傍のOH濃度分布は, 波長283.553 nmのレーザー光励起による通常の単光子吸収LIF法で取得し、HとOの濃度分布には,それぞれ波長205.08 nmと225.585 nmのレーザー光励起による2光子吸収LIF(TALIF)法で取得した.燃焼室内壁面にInconel合金の薄膜(100 nm程度)を形成することで,壁面の熱的境界条件を一定に保ったまま,壁面材質が火炎に与える影響を壁面近傍のラジカル濃度分布から定量評価した.そして,実験と同条件の水素火炎に対して、各ラジカルが壁面における初期吸着係数を系統的に変化しながら数値シミュレーションを実施した.計算と実験で得られたOH, OとHラジカルの濃度差の平方和を目標関数とし,最小2乗法を用いて初期吸着係数の最適解を算出し,表面反応モデルの構築に成功した.
|