本研究では,リチウム空気電池の空気極に超音波振動を加えることで電解液中に対流(音響流)を誘起し,さらに反応面近傍の濃度境界層を薄くすることで,高電流密度での放電を実現できる酸素輸送の促進を目指す.超音波を照射した多孔質構造内で生じる,移流・拡散・反応が共存する酸素輸送現象を解明することを研究目的とする. これまでの研究において,超音波振動によって正極多孔質電極内に音響流を誘起し,酸素輸送の促進によって正極過電圧を低減することに成功した.さらに長時間放電を実施し,放電に伴う固体析出物が生じた状態で振動を与えた場合の影響についても調べたところ,時間とともに増大していた過電圧が,振動を与えることで低減されることが明らかになった. 最終年度は析出物に対する超音波振動の効果を調べるため,析出が生じた電極に対して超音波を照射し,析出物の剥離等の形態変化に着目した実験を行った.なお,本実験では観察を容易にするため,長時間放電を行って析出が生じた電極を取り外し,ex-situで超音波照射を繰り返しながら光学顕微鏡で観察した.実験の結果,電極上に生じた析出物は超音波を照射しても容易には剥離しないことが分かった.超音波は一般的には物質表面の汚れを除去する用途でも用いられており,剥離が生じなかったことから析出物は電極表面に対して強固に吸着していることが推定される.したがって,超音波照射は放電中の酸素輸送を促進する効果はあるものの,電極上に生じた析出物の除去に対しては顕著な効果が得られないと考えられる.
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