研究課題/領域番号 |
18K03973
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
大川 富雄 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20314362)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クエンチ / 熱伝達率分布 / 無次元相関式 / 機構論的相関式 |
研究実績の概要 |
本研究では、高温に熱せられた固体の表面に液体を供給して、沸騰熱伝達により冷却する問題を検討対象とする。この場合、初期の冷却形態は膜沸騰による徐冷だが、伝熱面温度がある値(クエンチ温度)まで低下すると、伝熱面が局所的に濡らされて、冷却形態が核沸騰による急冷に移行する。この過程をクエンチと呼ぶ。濡れ領域先端の進展速度(クエンチ速度)は、固体が高温に保持される時間を決定するため、原子炉の事故時緊急冷却等で重要となる。しかし、現状では、「クエンチ点近傍の熱伝達率分布」に関する実験情報が乏しいため、「クエンチ速度」を正確に予測できない状況にある。 そこで本研究では、赤外線サーモグラフィー温度計測技術を高温かつ激しく温度変動するクエンチ時の過酷な環境に適用することで、クエンチ点近傍における伝熱面温度分布の高時間・高空間分解能計測を、世界に先駆けて実施した。得られた温度分布の実験データを熱伝導方程式に代入することにより、クエンチ点近傍における熱伝達率の空間分布を実験的に導出することに、世界で初めて成功した。また、得られた熱伝達率分布を実験データベースとして、熱伝達率分布と濡れ開始温度に関する無次元相関式を開発した。これらの実験相関式を用いれば、クエンチ速度を高精度で予測できることも示した。 したがって、伝熱面の材質や初期温度など、より広い熱流動条件で実験データを蓄積することにより、信頼性の高いクエンチモデルを開発可能と考えられることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速度赤外線サーモグラフィーを用いることで、クエンチ点近傍における伝熱面温度分布を高時間・高空間分解能で計測するとともに、得られたデータを熱伝導方程式に代入することで熱伝達率分布の空間分布を実験的に得た。また、導出された熱伝達率分布データより、クエンチ温度と熱伝達率分布に関する無次元相関式を開発した。これらは、いずれも世界初の成果である。伝熱面の材質や初期温度など、より広い熱流動条件で実験データを蓄積することにより、信頼性の高いクエンチモデルを開発可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
伝熱面の材質、表面性状、初期温度や冷却液の物性値などの実験パラメーターについて、より広い範囲で熱伝達率分布データの収集を行う。得られた実験データを用いて、より信頼性が高く、かつ広範囲の熱流動条件に適用可能な、クエンチ温度と熱伝達率分布に関する相関式を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、クエンチ点近傍における熱伝達率分布を実験的に導出可能な高品質の温度分布データを取得するため、計測手法の開発に集中した。このため、実験条件を絞って計測作業を繰り返すことが、有用な成果を得る上で合理的であり、支出が予定よりも少額で済んだ。2020年度は、実験条件を拡大して実験データの収集を行う予定であり、また、クエンチ時の熱伝達に関して有用な成果が得られているため学会発表も計画している。このため、2020年度の予算は、実験に必要な物品の購入や成果発表のための旅費等に充当する予定である。
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