研究課題/領域番号 |
18K03978
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 康隆 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (30346192)
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研究分担者 |
大森 健史 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70467546)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 濡れ / 界面 |
研究実績の概要 |
まずピニングを有する接触線を扱う上で理論的前提となる平滑な固体壁面上の平衡状態の濡れについて,分子動力学法(MD)を用いた解析を行った.壁面上の半円柱状の平衡状態のアルゴン液滴について,固気液の界面が交わる接触線近傍の領域を包括する矩形の検査体積を考え, その中の流体部分に働く領域外の流体からの力の寄与,即ち応力寄与を算出し,その和がゼロになることを示した.平衡状態では固体と液体の寄与の和がゼロになるので,研究の計画段階で示唆されたように,平滑な壁面上では接触線に対して固体から働く力もゼロであることがこの解析より明らかとなった.これを前提に,先述の検査体積に働く応力の寄与を,思考実験を介してマクロスケールにおける界面張力と力学的に接続し,ミクロスケールのYoung の式が, 固体からの平均的な場が水平方向の力を与えないという前提の下で, 接触線を囲む検査体積に働く応力の釣り合いを表すものであることを証明した.また,先述の界面張力を,熱力学積分法という最新の方法を用いることで自由エネルギーの形で熱力学的に抽出でき,これが力学的な解釈と一致することも示した.この成果を,本分野で定評ある査読付き国際学術誌であるJournal of Chemical Physicsで発表したほか,複数の国内学会で発表した. また,主要な課題であるピニングを扱うため,固体壁面上に固液間相互作用の異なる部分の境界線を有する場合の接触線の挙動について,準二次元的な解析を行った.接触線がこの境界近傍にあるとき,平滑面とは異なり固体からの力が働き,これを外力とみると,先述のYoungの式に補正項として加わるが,MD解析からその値を抽出することで,この考えが正しいことを立証した.さらにピニング状態から離脱するために必要となる最小仕事を見積もった.この成果を複数の国内学会で発表し,国際学術誌に投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,ピニングを有する接触線を扱う上での理論的前提について明確に示し,またピニングを有するひとつの典型的な系について,計画段階で示した方法論が適用できることも示しており,これらの単純な流体分子,壁面構造を用いた系については,すでに実績を,国際学術誌で発表できる段階までまとめた.また,より具体的な系としてOH修飾されたSiO2表面上の水という,複雑な流体分子,固体壁面についての解析を行い,先述の単純な系について得られた知見や,熱力学積分法などの方法論が適用できることも示した.この成果についても国際学会,および複数の国内学会で発表しており,特に国際学会では,発表者がBest Presentation Awardを受賞するなど,高い評価を受けた.この内容についても,本年度中に国際学術誌への投稿を予定している. さらに,接触線が壁面に対して動的に動く系についても,研究分担者である同専攻の大森健史助教との協力のもと解析を順調に進めており,接触線近傍での流れ場や,固液間の境界条件の扱いなどについて新たな知見が得られたことから,国際学術誌であるSoft Matterに論文を投稿したが,すでに受理され近日中に発刊される予定となっている. これらの成果を全般的にみると,おおむね順調に研究が進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の展開として,現段階では,上記のSiO2上の水の系については,熱力学積分法を介した界面張力や,液滴の接触線近傍に働く力の抽出はすでにできているものの,そのミクロな描像や力の発現の原因が未解明であり,この系については,これらを検討することが第一段階の目標である.また,動的な濡れについては,Lennard-Jones系において液滴内の応力テンソルの空間分布を直接的に算出することに成功しており,速度分布を含めて,マクロスケールの流体力学で扱うべき物理量の空間分布の情報がほぼ全て得られる見込みが立っていることから,これらをもとに非平衡,非定常な濡れの過程における液滴の濡れ広がりの速度を支配する要因を明らかにし,モデル化することが主な目標となる.引き続き予定している国内,国際学会での発表による接触的な情報交換も,これらのモデル化の足掛かりとなると考えている.特にフランスのリヨン第1大学のLaurent Joly教授とは,過去2年,2度に渡る数週間の招聘を通して交流を深めながら共同研究を進めており,これによる研究の加速も期待できる.
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