研究実績の概要 |
ピニングを有する接触線を扱う上で理論的な前提となる平滑な固体壁面上の平衡状態の濡れについては,本研究の枠組みで行った分子動力学(MD)解析により,固液,固気の界面張力と,固体表面近傍における表面接線方向,法線方向の応力の積分,および熱力学的に得られる付着仕事が対応することが示した.前年度には,固体壁面上に固液間相互作用の異なる部分の境界線を有する場合の接触線の挙動について,準二次元的なメニスカスを有する系を用いた解析を行い,接触線のピニング力の理論的な見積もり,および,接触線がピニングされた状態から離脱するために必要となる最小仕事を見積もった.本年度は,新たな取り組みとして,固体平板が液槽に浸されメニスカスが形成された準2次元系のMD解析を行い, 固体に局所的に働く力が平均場近似に基づく理論解析と一致することを示した. これにより,先述の応力分布の算出や,熱力学積分などの計算負荷の高い過程を経ずに,単一のMD計算から容易に得られる値を用いて,固気液の3つの界面張力を算出できることを示した.この成果を,本分野で定評ある査読付き国際学会誌であるJournal of Chemical Physicsで発表したほか,国内の複数の学会において発表した.とくに,2020年12月に開催された数値流体力学シンポジウムにおいての発表が高い評価を得たことから,同シンポジウムを主催する日本流体力学会の会誌である「ながれ」に特集記事「注目研究」として掲載される予定となった(40巻2号(2021年4月25日発行)).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究による成果として投稿した論文[Y. Yamaguchi, H. Kusudo, D. Surblys, T. Omori and G. Kikugawa, "Interpretation of Young's equation for a liquid droplet on a flat and smooth solid surface: mechanical and thermodynamic routes with a simple Lennard-Jones Liquid," J. Chem. Phys., vol. 150, no. 4 (2019), 044701]が,2020年4月にThe Journal of Chemical Physics, 2019 Editor’s choice article (4078報中の88報) に選定された.また,これらを含む成果により,2020年6月に2019年度(第58期)日本伝熱学会学術賞を受賞した.このように,本研究の成果が国内外で高い評価を得ており,当初の計画以上に進展しているといえる.
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