本研究では,新たに開発したレーザースキャニングサーモグラフィと名付けた生体内非接触可視化技術に関する実現可能性を示すことを目的とし実験を行った.具体的には,レーザー波長に対する物質の吸収係数やレーザー加熱後の経過時間,検出来省の熱輸送性質による温度推移への影響の検討を行い,可視化により物質の検出が可能であるかを評価した.検出対象として,水と同程度の熱拡散率を有するアクリル表面を用い,表面に黒体を塗布したものと生体組織に似た熱物性が既知である豚脂を用いて実験を行った.また,実験系を模擬した理論モデルを作成し,有限要素法により数値解析を行い実験結果と比較を行うことで最適な検出条件を算出し比較を行った. 生体試料の中に包埋させたアクリル角棒は,レーザー光の大部分を表面で吸収し温度上昇したことで,レーザー通過後の試料表面温度の時間変化に伴い,明瞭な可視画像を得ることができた.さらに,同条件で行った解析結果とも得られた表面温度分布が一致していた.一方,1mm角に成型した豚脂を表面深さ1mmとして準備した試料においては,生体模擬試料の近赤外波長域における吸収係数の低さが影響し,深さ方向に加熱が十分に行われず,レーザーの散乱の影響が無視出来ない程に小さな応答しか得られず,可視画像の取得には至らなかった.生体由来のみの試料の可視画像を得るには生体の吸収係数を考慮し,遠赤外波長域に最適化したレーザーを使用しなければならないことが明らかとなった.
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