本研究は,単位体積あたりの熱輸送量を増加させるために,蓄熱物質を熱輸送媒体に混合させた熱輸送技術の実現に向けて,新たに血液中の赤血球をモデルとした弾性変形可能なカプセルに蓄熱物質を内封させて熱輸送媒体と混合させる技術開発を行うものである.この血液中の赤血球をモデルとした弾性変形可能なカプセルを用いたスラリーの利用は,熱輸送量の増加とともに,細い配管内でも流動可能となる特性を熱輸送媒体に付与することになり,熱媒体への蓄熱物質混合技術の実用化に大きく貢献することが期待される.この研究目的の実現のため,本研究期間にて明らかにするべき項目は,主に①変形能を持つカプセルの基本的特性の把握,②このカプセルを混合した熱輸送媒体スラリーの耐久性,流動抵抗と熱伝達特性の確認である. 令和2年度は,前年度までの研究成果により本研究課題の目的を最も満たすと判断されたゼラチンカプセルスラリーに着目して,始めに項目①変形能を持つカプセルの基本的特性の把握に関連して,スラリーの融点と潜熱量を測定するとともに,スラリーの種々の熱物性値の推定式の検討を行った.引き続き,項目②このカプセルを混合した熱輸送媒体スラリーの耐久性,流動抵抗と熱伝達特性の確認を行った.その結果,カプセル内の潜熱蓄熱材が固相の場合よりも液相の場合での対流熱伝達の増加が明らかとなった.また,潜熱蓄熱材を固体から液体へ相変化させながら流動させた場合,相変化の発生によって対流熱伝達が増大することも確認された.これらの結果より,製作したゼラチンカプセルスラリーに新たな熱輸送媒体となる可能性があることが示唆された.一方,実用化の点において,カプセルの耐久性の点に問題があることも明らかとなった.
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