2021 年度は,直流,交流,および直流・交流複合磁場中において酸化鉄ナノ粒子が形成する自己組織化クラスター構造を光学顕微鏡により観察した.ナノ粒子を水に分散させた溶液を二枚の基板間に封入し,高周波交流磁場を発生するコイル内に設置した.磁場の影響を受けないようコイルから十分離れた位置から長距離顕微鏡を用いてクラスター構造を観察した.なお,直流・交流複合磁場を印加する際には,直流磁場発生用のコイルをさらに一組用いた.この実験システムを用いて高周波交流磁場中におけるナノ粒子のクラスター形成過程の観察に成功した.前述の通り本実験ではナノ粒子は高周波交流磁場を印加するコイル内にあり,磁場中のナノ粒子のクラスター構造はコイルの隙間から観察する.しかしながら交流磁場の振幅が大きくなるにしたがってクラスターのサイズが大きくなり,前年度に準備したコイルではピッチが狭くクラスターの全体像の把握が困難となった.そこで新たにピッチを広げたコイルを設計・準備しこれを用いて実験を行った.粒子の充填率,交流磁場の振幅および直流磁場の強度を変化させ,その際のクラスター構造の変化を観察した.ナノ粒子は外部磁場中において鎖状構造を形成するが,画像解析によりクラスターの長さ,幅,アスペクト比の分布を求め,これらの前述実験条件依存性を明らかにした.次にナノ粒子の発熱量を測定した.ナノ粒子分散溶液を円筒状の容器に封入し,これにクラスター観察実験で使用したコイルを用いて交流または直流・交流複合磁場を印加した.溶液の温度上昇を測定し,これより粒子の単位質量当たりの発熱量を評価した.粒子の充填率,交流磁場の振幅および直流磁場の強度を変化させ,発熱量のこれらパラメータ依存性を解析した.さらにこれら2つの実験結果を比較し,ナノ粒子のクラスター形成が発熱量におよぼす効果を検討した.
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