研究課題/領域番号 |
18K04004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
貝塚 勉 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (50756369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 能動遮音制御 / 能動騒音制御 / 能動振動制御 / モード制御 / モード・フィルタ / 振動モード |
研究実績の概要 |
他の振動モードとの連成を考慮しつつ、任意のひとつの振動モードから閉空間の音響ポテンシャルエネルギへの寄与(structural modal acoustic potential energy。以下、SMAPE)を計算する方法を提案した。SMAPEを計算すれば、各振動モードの音への寄与が定量的に分かる。 この計算法では振動モード同士の連成を部分的に無視するため、その近似誤差について数値シミュレーション(例題は直法体の閉空間。以下同様)により検討した。具体的には、音響ポテンシャルエネルギの厳密解と、全振動モードのSMAPEの和(音響ポテンシャルエネルギの近似解)とを比較し、両者の差を評価した。その結果、音響インピーダンスが大きいほど近似誤差が大きいという理論に矛盾しない傾向が見られた。よって、音響インピーダンスがある程度低い場合ならば、本計算法を適用できるはずである。 SMAPEのように振動モード同士の連成を考慮しない定性的な考え方だが、対象の周波数帯に共振周波数を持つ音響モードとの連成係数が大きく、当該音響モードとの共振周波数の差が小さく、振動モードの励起係数が大きいほど、その振動モードの寄与は大きいと考えられる。SMAPEのシミュレーション結果は、この考え方に矛盾しない傾向を示した。前記の定性的な条件を踏まえつつ、SMAPEを計算すれば、寄与の大きい振動モードを把握して騒音対策を講じることが効率的に行えるはずである。 寄与の大きい振動モードを選択的に計測・制御するためのセンサ・アクチュエータを設計し、当該モードを選択的に抑制した場合の騒音抑制効果をシミュレーションによって検討した。その結果、期待どおりに騒音を抑制できた。 提案する制御系の有効性を実証すべく、実験系の作製に着手した。シミュレーションと同様に、実験系は直方体の閉空間とする計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究実施計画では、下記の項目に取り組む予定であった。 ・各振動モードの音への寄与を個別に定量化するための計算法を提案すること ・その計算法の適用範囲を数値シミュレーションを用いて検討すること(提案する計算法が近似誤差を含むと考えられるため) ・その計算法によって求めた各振動モードの音への寄与の周波数特性を参照して寄与の大きい振動モードを特定するという作業を数値シミュレーションを用いて試行すること ・実験系の設計・作製に着手すること 上記の「研究実績の概要」に記載したように、いずれの項目についても概ね順調に進展している。また、多数のセンサ・アクチュエータを使用できるという仮定のもと、音への寄与が大きいと特定された振動モードを選択的に計測・制御した場合の騒音抑制効果について数値シミュレーションを用いて検討した。「研究実績の概要」に記載したように、期待どおりの騒音抑制効果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1年目では、提案する制御法のproof of conceptに重きを置き、多数のセンサ・アクチュエータを使用できるという理想的な設定でシミュレーションを行い、その有効性を示した。 2年目以降では、提案する制御法の有効性を実験的に検討することを視野に入れ、少数のセンサ・アクチュエータの使用を前提とした、より現実的な設定でシミュレーションを行う。少数のセンサ・アクチュエータであっても十分な精度でモード・フィルタを実現できるか(狙いの振動モードを選択的に計測あるいは制御できるか)の評価や、そのモード・フィルタを用いて得られる騒音抑制効果の評価を数値シミュレーションによって行い、センサ・アクチュエータの適切な数や配置などについて検討を進める。また、数値シミュレーションの結果を踏まえつつ、実験系の設計・作製を進める。 3年目では、上記のように数値シミュレーションを通して検討されたセンサあるいはアクチュエータの構成を用いて、モード・フィルタが実現できるかなどの点について実験的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度から実験系の構築に着手したが、それに関わる支出が今年度使用額の大部分となっている。実験系の構築には、騒音が透過・放射される壁を模擬した構造体、センサ、アクチュエータ、コントローラ等の機材が必要である。ただし、一部の機材については理論や数値シミュレーションでの検討状況を踏まえて改めて仕様等を検討して購入したほうがよいと判断したことから、今年度使用額が予定よりも少なくなり、次年度使用額が生じた。 上記のように生じた次年度使用額と翌年度請求額を合わせて、実験系の構築に必要な機材を揃える計画である。
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