本研究では,機械構造物の制振装置に用いられる動吸振器を能動的に駆動する際の制御信号に,情報伝送手段に用いられる振幅変調理論を適用することで,従来設計方法の限界を超えた超小型・軽量な可動質量を備える振幅変調駆動型アクティブマスダンパを開発し,その制振性能を検証することを目的した検討を行っている.小質量による慣性力の不足を補うために,振幅変調の施された高い振動数の搬送波信号で可動質量を強制駆動することによって加速度を増幅しつつ,搬送波と変調波の差周波数の慣性力成分を利用して,主構造物の共振周波数付近の振動抑制を図ることを狙いとする. 令和2年度は前年度に引き続き,研究初期に導出した数学モデルの数値的応答と試作模型による応答の実測結果との間に齟齬がある問題について考察を行い,理論モデル式の再検証を行った.数値計算モデルに新たなばね要素を付加し,再構成後の動吸振器モデルに対して,実測の動特性に基づきパラメータ同定を実施した.同定後のパラメータを適用したモデルに基づいて,振幅変調信号による可動質量の駆動と動吸振器応答を数値的に予測した結果,実測応答と定性的によく一致する特性を再現できた.さらに,動吸振器と主構造を結合したモデルに対して,変調に伴って副次的に生成される振動数成分が制振特性に与える影響の検討を行った.本検証においては搬送波周波数固定の条件のもと,制振に利用する信号波周波数を変化させて動吸振器を強制駆動し,主構造側の応答を評価した.副次成分が主系応答に及ぼす影響を低減するための主系と副系との物理的接続条件として,両者間にメカニカルなローパスフィルタの役割を担うばね要素,減衰要素の追加が必要であることが明らかとなった.ただし,駆動力に含まれる高調波成分の伝達が大きく低減される一方で,制振に必要な周波数成分も連動して弱められることがわかった.
|