令和2年度は,構造系と音響系の境界面(連成面)に乖離がある場合に,過渡応答を利用して乖離要因を特定可能か検証した.具体的には1辺約 600 mmのアクリル製の音響箱(構造系)を作成し,構造系とその内部の閉空間(音響系)が連成する系を作成した.そして音響箱の一部の内側表面に厚さ 25 mmのフェルトを張り付け,連成面の乖離要因とした.フェルトの質量・剛性は音響箱のそれと比較して非常に小さく,構造振動へ与える影響は小さい.また低周波の音響モードの固有振動数に対してもフェルトが与える影響は小さく,主に音響系の減衰として寄与していた. 検証では,従来の駆動点FRFを実験と有限要素解析で比較する方法と,本研究で提案している過渡応答を比較する方法を検証した.従来法の検証では,複数の点の駆動点FRFを比較したが,FRFには系を構成するすべての構造系,音響系,連成面の影響を含むため,駆動点FRFの比較からは,局所的に設置したフェルトを乖離要因と特定することはできなかった.提案法の検証も,はじめに複数の点の駆動点過渡応答を比較した.その結果,フェルト近傍の駆動点過渡応答では,実験と有限要素解析で求めた過渡応答の乖離が生じる時刻が他の点よりも早いことから,フェルト近傍に乖離要因があることを特定できることを示した.また,加振点と応答点が異なる位置の過渡応答の実験と有限要素解析の比較も行い,複数の加振点と応答点の組の中で,特定の加振点と応答点の間に乖離要因が存在するか否かを判断できることを示した.
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